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風のゆくえには~たずさえて4(菜美子視点)

2016年07月12日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~たずさえて

2015年8月15日(土)


 一昨日からお盆休みのため、実家に泊まりに来ている。でも、

「菜美子、今、彼氏は? まだ結婚しないの?」

とか、母がうるさいので、今朝から行くバーベキュー合コンのあと、そのまま一人暮らしのマンションに戻るつもりだ。

 準備を終えて、階段をおりていく途中で、嫌な………嫌でたまらなくて、でも、心が踊ってしまうほど嬉しい声が聞こえてきて足を止める。部屋の中では音楽をかけていたせいか来訪に気がつかなかった。

(……お化粧したあとで良かった)

 そう思いながら、髪の毛が変になっていないか気になって、さっとなでつける。
 深呼吸をして、覚悟を決めて、声のする台所に入っていくと、

「よお」
「…………」

 分かっているのに、心臓がぎゅっとなる。大好きな響く声。でも冷静を装って、冷たく答える。

「何してるんですか? 院長」
「院長はやめろよ。職場じゃねーんだから」
「…………」

 そんなの、分かってる。
 病院でのスーツや白衣と違って、ラフなポロシャツ姿。髪の毛もいつもは後ろに流しているのに、今は無造作……というか単にボサボサ。完全な休み仕様。

(くそー……これはこれで中年の色気だだもれだな……)

 腹立つくらい………

「ほら菜美子、ヒロ君、スイカ持ってきてくれたのよ」
「スイカ?」

 見ると大きなスイカが2つ……

「昨日、熊本の親戚から送られてきたんだよ。お前、今日バーベキューに行くっていうからちょうどいいと思って」
「バーベキューでスイカ?」

 首をかしげると、ヒロ兄はスイカをペチペチ叩いて、

「バーベキューっていったら、当然やるだろ。スイカ割り」
「は?」

 なぜバーベキューでスイカ割り?
 まあ、スイカ割りはともかく、スイカはあったらあったで嬉しいか……

「駅まで迎えの車がくるんだろ? 1個持ってけよ」
「…………。幹事に聞いてみる」

 幹事の溝部さんにラインを送る。
 と、すぐに返事が返ってきた。

『スイカ!それは嬉しい!是非お願いします!バットとビニールシート持っていきます!』

 バットとビニールシートって…………、スイカ割りか!!

(やっぱり二人、似てるかも……)

 ちょっと笑ってしまったところで、

「ほら、やっぱりスイカ割りだろ?」
「!」

 耳元で声がして飛び離れる。至近距離にヒロ兄の唇。ヒロ兄の匂い……

「人の携帯のぞかないでよ!」
「なんだよ、今さら隠すことないだろ」
「……っ」

 ポンポン、と頭を撫でられ、泣きそうになってくる。ホントにこの人は……っ

「じゃ、おばさん、オレ菜美子のこと駅まで送ってそのまま帰るよ」
「ありがとね、ヒロ君。お母さんによろしくね」
「…………」

 50過ぎのオジサンに君付けもないだろ、と思うのだけれど、小さい頃から知っていると、いつまで経っても子供みたいなものなのだろう。

 ヒロ兄は父と母が昔住んでいたアパートの大家の息子なのだ。長く子供ができなかった両親にとって、ヒロ兄は息子代わり的なところもあったらしい。
 私が小さい頃にそのアパートからは引っ越したのだけれども、引っ越し先も近所だったため親交は続いていた。


「行くぞ?」

 当然のように、スイカと私の荷物も持ってくれるヒロ兄。その腕の逞しさに今さらキュンキュンしてしまう私も大概だ。悔しいので憎まれ口をたたいてしまう。

「お腹出てきたね、ヒロ兄。いつもは白衣だから目立たなくて気がつかなかった」
「50過ぎでこれだけしか出てないなんて奇跡だぞ? お前の旦那になる奴なんてもっと出るから覚悟しとけ」
「…………」

 お前の旦那になる奴、か……。

「あいにくそんな人いませんけど」
「さっきのラインの奴は? 仲良さそうだったじゃねえか」
「別に仲良くないし」

 車に乗り込む。いつもは奥さんが座ってる助手席……。

「駅に迎えにくる奴もそいつ?」
「違うよ」
「違うのか。どんな奴がくるんだ?」
「…………。なんでそんなこと聞くの?」

 答えは分かっているくせに聞いてしまう。
 聞きたくて、聞きたくない、答え。

 ヒロ兄は予想通りの答えをあっさりと言う。

「そりゃ、お前はオレの大事な妹だからな。変な奴と付き合わせるわけにはいかねーよ」
「………………」

 妹。大事な妹。
 嬉しくない。でも嬉しい。でも嬉しくない。

「…………。普通の人だよ。区役所に勤めてる、真面目な感じの人」

 ヒロ兄とは正反対な人。
 そう答えると、ヒロ兄は、へえ~とうなずき、

「公務員か。いいじゃねーか」
「…………」

 いいって何が? 結婚相手として? 安定の公務員ってやつ? ……と、トゲトゲしく言いたくなるのを抑えて、話題をそらす。

「でも私だけ迎えにくるわけじゃないよ。明日香とも駅で待ち合わせてるの」
「明日香ちゃんか! 久しぶりに名前聞いたな。なんだ、あの子もまだ結婚してないのか? 昔、変な男と付き合ってたよな」
「あ~、あのバンドマンね」
「そうそう。頭爆発してた奴な!」

 ヒロ兄のはしゃいだような声に嬉しくなってしまう。嬉しくて嬉しくて切ない時間。このまま駅に着かなければいいのに……

 と思っていても、駅までは車で5分弱。あっという間に着いてしまった。

「あ、あいつか?」
「…………あ」

 駅前の停車スペースで、お迎えの山崎さんが、暑い中、律儀に車から出て待っている。

 あーあ……まだ来てなければヒロ兄ともっと一緒にいられたのに……

 そんな私の内心なんか知るわけもないヒロ兄は、楽しそうにケタケタと笑いだした。

「うわー、ザ・公務員って感じだな」
「………失礼でしょ」

 たしなめながらも、私もつい笑ってしまう。

 こちらに気がついて、軽く会釈をした山崎さん……
 公務員の中にはもちろん派手な人だっているのに、『公務員』というと、真面目な人のような気がしてしまう。山崎さんはまさに『公務員』を体現したような人だ。


「車停められねえな。お前ここで降りられるか?」
「あ、うん」

 3台分の停車スペースは全部埋まっているため、山崎さんの車のほど近くに車を寄せて停めてもらった。後続車がくる前に早く降りなくてはならない。

「気を付けてな」
「ありがと」
 ヒロ兄の言葉に肯きながら後部座席の荷物を取ったところで、

「持ちますよ」
 山崎さんがこちらまで来て、荷物とスイカを受け取ってくれた。先日も思ったけれども、山崎さん、けっこう気が利く。

「じゃ、菜美子のことよろしくお願いします」
 助手席側の窓を開けて大きな声で言うヒロ兄……。よろしくって何の立場のよろしくよ?

「あ、はい」
「じゃーな」

 山崎さんが真面目な顔をして再び頭を下げたのをみて、ヒロ兄はニヤニヤしながら私に手を振り、行ってしまった。

(何そのニヤニヤ……)

 ああ、腹が立つ。腹が立つけど……。でも、もうどうしようもない。どうしても好き。やっぱり好き。久しぶりにプライベートのヒロ兄を見て確信してしまう。

(バーベキュー……昔連れて行ってもらったことあったな……)
 まだ小学生のころだ。無邪気にヒロ兄に肩車してもらっている写真もあった。まるで歳の離れた兄妹のように……。

「今の方は……?」
「………」

 山崎さんの当然の疑問に、一瞬詰まってしまう。

 近所に住んでるお兄さん。職場のエライ人。説明するとそういうことになるけど……でも。

「どういう関係に見えました?」
 ちょっとイラッとしながら山崎さんに聞いてみる。ただの八つ当たりのイライラ。ダメだと思いながらもイライラが止まらない。

 どうせ、年の離れた兄、とでも見えただろう。若い父親ってこともありうる。ヒロ兄は私の20歳年上なので無い話ではない。
 どうせ、そうとしか見えないのだ。いつまでたっても、私はヒロ兄の『大事な妹』。それ以上でもそれ以下でもない。

「どういう関係……」
「………」

 山崎さんはこちらのイライラには気が付かないように、うーんと唸ると、

「あの、変なこと言っていいですか?」
「え」

 なんだろう?

 山崎さんに真っ直ぐ瞳を向けられ、ちょっとイライラがおさまる。変なことって何?

「いや……あの、これから合コン、行くのに変なんですけど」
「はい?」

 山崎さんはうーん、と再び唸ってから、ポツリ、と言った。

「恋人? って思ったんですよ」
「………え」

 な……何を………

「今の男性を見送った戸田さんの目が………」

 山崎さんの静かな声……

「桜井が渋谷を見るときの目と同じだった気がしたので」
「………っ」

 心臓がドキンと波打つ。
 桜井氏が渋谷先生を見る目……愛おしくてたまらない、という目……

「あ………」

 何か、言わないと……否定しないと……
 そう思いながらも言葉が出てこない。だってそれは真実だから……

 気マズイ沈黙が数秒流れた、その時。

「菜美子ーー山崎さーん!」

 明日香の声が沈黙を破ってくれた。大きな麦わら帽子をかぶった女性がこちらに向かって歩いてきている。

「あー、スイカってそれー? 溝部さんから連絡もらったよー」
「……」

 溝部さん、マメだな……

「荷物、トランク入れますね? スイカは、転がってしまうと困るので……」
「あ、はい。持ってます」

 トランクを開けながら何事もなかったかのように言ってくる山崎さんに、何事もなかったかのように肯く。

「今日はよろしくお願いしまーす」
「お願いします」

 山崎さん、明るく挨拶をする明日香から荷物を受け取り、真面目に挨拶をかえしている。私とのさっきの会話はなかったことにするつもりらしい……

「菜美子? どうかした?」
「……あ。いや」

 明日香の声に我に返る。思わず山崎さんを観察してしまっていた。

 この人……気が利くのは、まわりをよく見ているからだ……

(油断できないな……)

 こういう人は苦手だ。見透かされてる気がする。

 つき合うなら、もっと鈍感な人がいい。鈍感で明るくて……

(………)

 結局、脳裏に浮かぶのはヒロ兄の姿なんだから、私も本当にどうしようもない。




---------------

お読みくださりありがとうございました!
山崎と菜美子……本当にくっついてくれるのかしら……と、真剣に心配になってきました。
いやでもまだ、昨年の8月だし。まだまだこれからです。
どうぞよろしくお願いいたします!

そしてそして。
クリックしてくださった方、見に来てくださった方、本当に本当にありがとうございます!
どれだけ励まされていることか……感謝感謝でございます。
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風のゆくえには~たずさえて3(山崎視点)

2016年07月10日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~たずさえて

2015年8月2日(日)


「渋谷、あいかわらず綺麗な顔してるよな」

 酔ってソファーで眠ってしまった渋谷の顔を見ながら、皆川がしみじみと言った。

「オレ、高校時代、渋谷が女だったらいいのにって何回も思った」
「あー分かる分かる。そこらの女よりずっと綺麗だもんな」

 溝部まで調子よく肯くと、渋谷の恋人である桜井がものすごく嫌な顔をして、

「変なこと言わないで」

と言って、隠すように渋谷を横抱きに抱きあげると、リビング続きの洋間のベッドに連れて行ってしまった。その抱きあげる仕草も手慣れていて、こいつら本当に恋人同士なんだなあ……とあらためて思う。

 二人の住むこのマンションに来るのも今日で三回目。
 一回目は、同窓会の帰り、酔って立てなくなった桜井を溝部と一緒に送りにきて泊めてもらった。
 二回目は、先々週。オレと溝部と斉藤という高校時代つるんでいたメンバーと、鈴木と小松の女子二人。すっかり母の顔になった鈴木とガッツリ飲んで、溝部もようやく高校時代の片想いと決別できたようだ。
 三回目の今日は、オレと溝部、それに皆川と委員長。

 皆川はオレと同じ中学出身で、オレと同じく大人しくて地味なタイプ。委員長は学級委員でクラスを仕切れるくらい目立ってはいたけれど、基本的に真面目なので、皆川と同じグループだった。
 どう考えても、オレも委員長や皆川のいる地味グループの方がシックリくるのに、なぜか高校2年の一年間は、わりと派手な渋谷や溝部と一緒に行動していたのだ。なんでなのかいまだに本当に分からない……。

 でも、大人になり、それぞれ所属の場所が違ってしまえば、そんなことも関係なくなってくる。溝部と皆川も当時はたいして話したことなかったのに、同窓会で意気投合して、今回の集まりでも妙に二人で盛り上がっている。

「渋谷だったら男でもありだったなー。結局、桜井だって渋谷に迫られて落ちたってことだろー?」
「あんな綺麗な顔に迫られたらそりゃ落ちるよなあ」
「オレ、高校の時の渋谷だったらヤレた自信ある」
「え、まじか。え、ヤレるかー?」
「ヤレただろ! だってあの顔だし、背も小さくて華奢でー」
「可愛かったよなー。うーん、ヤレるかー」

 溝部と皆川、相当酔ってる。酒の席の下ネタとはいえ、この話題はどうなんだろう。委員長と顔を見合わせ、肩をすくめたところで、

「もー、いい加減にして!」

 戻ってきた桜井が溝部と皆川の間に割って入ってきた。

「人の彼氏のこと、ヤレたヤレたって!」
「だって結局そういうことだろー? 桜井、ヤったんだろー?」
「つか、ヤってるんだろー?」
「いいなーオレもあんな綺麗な顔に……」

と、皆川が調子に乗って腰を振るような仕草をしたところで、

「ヤってないから!」

 ビシッと、桜井が遮った。さすが現役教師。迫力がある。ふざけていた皆川もピキーンと固まってしまった。
 でも、溝部はすぐに「は?」と眉を寄せて、

「ヤってない? どういうことだ?」
「どういうこともこういうこともないよ。みんなだって知ってるでしょ、慶がものすごく男らしくて喧嘩も強いこと」

 桜井はムッとしたままそういうと、そこら辺の食べ終わった食器を重ねはじめた。
 確かに渋谷は可憐な容姿とは裏腹に、口も悪いし男らしいし、中学時代は相当狂暴だったという話も聞いたことがある。

「え、え? ってことは……」
「うそだろっ」

 溝部と皆川が手で口を押さえて、小さく叫んだ。

「桜井、お前が、ヤられる側ってことか?!」
「…………」

 桜井は食器を持ち、よいしょ、と立ち上がると、何でもないことのように言った。

「だからこないだも言ったでしょ。うちはおれが奥さんで、慶が旦那さんだって」
「…………」
「…………」

 キッチンに行く桜井を見送りながら、溝部と皆川がわざとらしくブルブルと震えだした。

「オレ、無理。いくら渋谷が綺麗でも無理……」
「掘られるのは無理。ホントに無理無理……」
「二人とも……」

 いい加減にしなよ……とたしなめたところで、桜井がお盆を持って戻ってきた。

「お茶漬け食べる?」
「うわ、なんだその気の効き方!」
「すげー豪華なトッピング!」
「これはオレの知ってるお茶漬けじゃない!」

 鮭やら三つ葉やらネギやら海苔やら梅干しやら……その場で手際よく一人ずつリクエストを聞きながらお茶漬けを作っていく桜井………

「あーオレ、桜井みたいな嫁がほしー。料理上手で、文句言わずに家事全般してくれる嫁ー」

 溝部がしみじみとつぶやくと、この中で唯一の妻帯者である委員長が苦笑した。

「溝部、そのセリフ、女の前で言わない方がいいぞ。私は家政婦じゃない!ってキレられるのがオチだ」
「委員長がいうと実感こもっててこわい」

 委員長は同級生の川本沙織と結婚している。川本は大人しそうなだけにキレると怖そう、というイメージがある。

「委員長家事してるの?」
「あー、平日はゴミ捨てくらいだけど、休みの日の昼飯はオレが作ることになってる」
「へーーー」

 子供は小2の女の子と年中の男の子らしい。休みの日はいつも子供達を公園で遊ばせていて、目下の悩みは上の子が逆上がりできないことと、下の子の自転車の練習で腰が痛いこと、だそうだ。
 委員長、別世界の住人だ……

「なんかすげーなー委員長……」
「ほんとだな……」
「別にすごくないだろ」

 オレ達の言葉に委員長が肩をすくめる。

「それを言うなら、今から恋愛はじめようとしてるお前らの方がよっぽどすごい。オレはそういうの面倒くさくてもう無理」
「えー……」

 別に恋愛をはじめようとしているつもりはないけれど、合コンに行ってるってことはそういうことになるのか……

「無理って、やっぱり川本とはもう今さら恋愛関係じゃないってことか?」

 溝部の質問に委員長は再び肩をすくめた。

「家族ってやつだな。呼び方もすっかりパパママだし」
「え、ヤってる最中もパパママ?」
「最中ほぼ無言だから、どのみち呼ばねーよ」

 皆川の突っ込んだ質問にも、委員長は平然と答えている。

「ちなみに月にどのくらい……」
「月1……いや、2?」
「委員長……」

 真面目に答えなくていいから……
 川本のこと知ってるだけに想像したくない……

 ズズズとみんなでお茶漬けをすする。これはおいしい。

「ちなみに、桜井奥様のうちは?」
「え、何?」
「何って……」

 タッパーの蓋を閉めながら振り返った桜井に、溝部が呆れたように言う。

「会話の流れについてこいよ。月に何回ヤってるかって話」
「え、月に? えーっと……」

 指で数えはじめた桜井。おいおい、片手で足りなくなってないか……?

「…………もういい。数えるな」
「え? あ」

 溝部が止めさせたところで、ちょうどベッドで寝ていた渋谷がフラフラと部屋から出てきた。

 桜井がいそいそと渋谷のところにいき、「お水飲む?」「汗かいてない?」「お茶漬け食べる?」と世話を焼いている姿を見て、溝部がしみじみと呟いた。

「桜井……。男ということをのぞけば理想の嫁だな」
「だな」

 溝部と皆川がうなずきあっている。

(理想の嫁……)

 理想の嫁ってなんだろう。料理上手なこと? 身の回りの世話をしてくれること?

(うーん……)

 それじゃ家政婦と一緒だな……。
 そもそもオレは、料理はあまり得意ではないものの、家事自体は苦痛ではないので、そこに利点を見いだせない。まあ、確かに、桜井並の料理が毎日食卓に出てきたら嬉しいけど……。

 うーん、と首をかしげたオレの横に、渋谷がストンと座った。桜井が再びタッパーを開けながら渋谷に聞いている。

「慶、どっち?」
「あー……、あ、やっぱこっち」
「いつもくらい?」
「ちょい少なめ、あ、これは多め」
「ん」

 ぽんぽんぽん、と交わされる会話。生活を共にしているものならではのやりとり。

(……こういうのはちょっと羨ましいかも)

 一緒にいるのが当然、お互いのすべてが分かっている、みたいな関係。

(まあ……そんな人に出会えるのは、やっぱり奇跡なんだよなあ)

 先月、久しぶりに合コンなんて行ったけれど、やはり妙齢の女性と話すのは気疲れしてしまって……。連絡先を交換したものの、結局あれから一度も連絡を取っていない。
 でも、溝部は連絡を取っていたそうで、新たに人数を増やしての「バーベキュー合コン」なるものに誘われてしまった。……正直、気が重い。

「桜井、おかわりー」
「オレもー」
「オレも。今度梅干しがいい」
「オレ鮭ー」

 みんなで桜井にお椀を差し出すと、渋谷が得意そうに「うまいだろ~?」と自慢しはじめた。

「出汁も全部手作りだからな!」
「すげーな。うらやましいぞ、渋谷」
「オレも桜井みたいな嫁が欲しー」
「だろー? でもこいつはおれのだから誰にもやんねーよ」

 渋谷は満面の笑みを浮かべ、前と同じようなセリフをまた言っている。

「だから野郎の嫁はいらねーっつーの!」

 そして前と同じツッコミをする溝部。
 でも皆川は、お茶漬けの用意をする桜井の様子を眺めてブツブツいいはじめた。

「でもホントに男ということを除けば理想の嫁なんだよな~。」
「理想?」
「理想だろー。料理上手で、甲斐甲斐しく世話してくれて、その上、月に……」
「み、皆川!できたよ!」

 慌てたように桜井が皆川の前にお茶漬けのお椀を押し出した。月に何回、の話は渋谷の前では触れてほしくないらしい。そりゃそうか。怒られそうだもんな。

 みんなで二杯目のお茶漬けをいただきながら、理想の嫁の条件をあーでもないこーでもないと言い合っている中、

「浩介、そっち一口」
「ん」

 渋谷と桜井はごくごく自然にお椀を交換して、

「あ、やっぱこっちもうまい」
「そう?」

 二人で微笑み合っている。こんな風に幸せそうに笑いあえることも……ちょっと羨ましい。

 


---------------

お読みくださりありがとうございました!
安定ラブラブ浩介と慶♪♪

えーと。ここで訂正(訂正?)。浩介さん、ウソついてます。本当は慶が受です。
でも慶がそういう対象でみられることに我慢できなくて、ウソついちゃったんです。
(『あいじょうのかたち33』で、浩介が慶にしてた話がこれでした)

浩介と慶、月に何回か?ですが、基本週1~2でした。が、この話の少し前に、色々あって増えまして……。増えた状態がスタンダードになりつつある今日この頃。週3くらいしてるかも、な感じ。でも回数はたいてい1回です。その1回がしつこい(丁寧と言ってあげて)浩介。………って、何を真面目に解説してるんだ私(^_^;)

そして皆川君。ここにきて書けるとは感無量……。
皆川君は『巡合4』で名前だけ出てきた男の子です。
文化祭の時の、メニュー班の一人でした。『メニュー班リーダーの鈴木さん、小松さん、山崎、皆川』って記述があります。
その時に、「君たち『溝部・山崎・斉藤・渋谷・桜井』の五人で仲良かったんじゃないの? 皆川って誰?」って思った方!(←そんな人はいない(^_^;))
本筋から外れるので当時は書けませんでしたが、もちろん皆川君もちゃんとキャラ設定ありまして。山崎の中学時代からの友人、同じ地味系男子。でもそうとうムッツリのアイドルオタク。今は秋葉原に通い詰めてます。
班決めの時に、人数の割り振りの関係で、山崎皆川でメニュー班になりました。

そしてついでにいうと、その時はまだ、溝部は鈴木さんへの恋心に気が付いていなかったため、違う班を選んでしまったのでした。溝部が鈴木さんのこと好きって気が付くのは文化祭終わってからです。
そのまま告白もせずに約24年。心の中で燻り続けていましたが、同窓会の席で勢いにのって告白、そして先々週ガッツリ飲んで、ようやく心の整理がついた、かも?(って今までも合コン行きまくったり彼女いたりしてましたけどねー)

溝部、鈴木さんみたいにちょっと気の強い、言いたいことポンポン言ってくる子が好きなので、菜美子の友人・明日香はかなりタイプなんじゃないかなあ……なんて思ったり。

なんて、あいかわらずどうでもいい細かい設定説明失礼いたしましたっ。

あくまでも、この物語は、山崎と菜美子の話!なのに、山崎が存在感なさすぎて今後が心配ですが、どうぞ温かい目で見守っていただければと……よろしくお願いいたします!!

そして……
クリックしてくださった方、見に来てくださった方、本当に本当にありがとうございます!
こんなどこにでもある恋愛物語ですが、友達の友達の話、くらいの身近さでお読みいただけると幸いです。
よろしければ、また次回も宜しくお願いいたします!

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風のゆくえには~たずさえて2(菜美子視点)

2016年07月08日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~たずさえて

2015年7月4日(土)


「65点、70点、80点、判定外」

 合コンの二次会への移動前。
 化粧直しの鏡の前で明日香が評したのを聞いて、「まあ、妥当な点数ね」とうなずく。

 全員、高学歴で正社員、というだけで、もう50点の基礎点がある。それに容姿と性格等を加点減点していくと……

 山崎さん、65点。
 優しそう。でも地味。良い意味でも悪い意味でも普通過ぎ。公務員というところは親ウケが良さそう。

 溝部さん、70点。
 明るく楽しいムードメーカー。若干太目なところで評価ダウン。でも、勤務先が有名メーカーというところと、わりとお洒落なところで大幅アップ。

 桜井氏、80点。
 学生時代は『普通』の外見だったかもしれないけれど、この年齢になってくると、背が高くて痩せていて髪の毛が薄くなくて清潔感がある、というだけでかなりポイントは高くなる。桜井氏の場合、さらに、顔もまあまあで、穏やかな物腰で、先生をしているだけあって話上手聞き上手で、文句の付けようがない。ただ、一人っ子なので、親の介護とか心配なところでマイナス。

 渋谷先生、判定外。これは……

「渋谷さんはホント判定外だよね。あんなの隣にいたら、こっちが引き立て役になっちゃうよ」
「いえてる」

 白衣姿やスーツ姿のいつもの渋谷先生は文句なくカッコいい。でも今日の私服の渋谷先生は何だか可愛らしかった。恋人である桜井氏と一緒だから余計に表情が可愛いくなっているのかもしれないけれど、とても40過ぎには見えない。こんな人が隣にいるなんて、女としてたまったもんじゃない。


「今回の合コンは、繋ぎとしては大当たりだね」

 バチン、とコンパクトを閉じて明日香が満足そうに言う。
 そう。合コンは何もその場の相手ばかりがターゲットではない。その後、その交遊関係を広げて繋いでいくことが大切なのだ。

「早々に溝部さんの会社の人紹介してもらおうよ」
「あー、そうだね……」
 早々にっていうのも失礼な気がするんだけど……

「ねえ、菜美子。二次会、どうする?」
「どうするって?」

 綺麗に口紅を塗り直す明日香。女の私が見ても魅力的な唇。ふんわりした雰囲気。痩せてるくせに大きな胸。女性としてすごい魅力を兼ね備えているのに、33歳になる現在まで結婚していないのは、仕事になると鬼モードに入ってしまうことと、結婚相手に求める理想が少し高めなことが理由だと推察される。


「あのバカップルはもう帰るんでしょ?」
「バカップルって」

 明日香の言い方に笑ってしまう。でも、確かに今日の渋谷先生と桜井氏はバカップルぽかった。
 元々二人は、私達を引き合わせるために来たのであって、合コンに参加しにきたわけではない。でも、あの過剰な視線の絡ませ合いは、おそらく、明日香を牽制したいという気持ちからきているのだろう。本当にこの二人、嫉妬深くて独占欲が強くてどうしようもない。誰も取ったりしないから、二人で勝手に完結してろっての。

「あの二人帰ったら2対2になるでしょ?  どっちがいい?」
「あー……」

 そういうことか。んーと唸っていると、明日香がポンと手を打った。

「菜美子、溝部さんの方がタイプじゃない? ヒロ兄ってあんな感じだったよね」
「…………」

 全然似てませんけど? そりゃタイプ別に分類したら同じかもしれないけれど、ヒロ兄はもっと話が上手。ヒロ兄はもっと背が高い。ヒロ兄はもっと……

 すぐに浮かんでくる面影を追い払って、はいっと手を挙げる。

「いやいや、私、山崎さんがいいなー。実直公務員」
「そう? じゃ、私、溝部さんと次の合コンの話、詰めとくー」
「ありがと」

 普通の顔をしてお礼を言いつつも、モヤモヤが募ってきてしまった。

(明日香、余計なことを……)

 中学からの親友で私のことを何でも知っている明日香。でも、明日香には言うと怒られるから内緒にしていることが一つある。それは……

(まだ、ヒロ兄のことが、好き)

 一度告白して玉砕してから何年たっただろうか……。
 それから何度も何度も忘れようとした。他の男と付き合ってもみた。でも『好き』という気持ちはどうやっても消えない。私の周りに空気のように漂っていて、無くそうとすると苦しくてしょうがなくなる。

 だから、諦めたのだ。『好き』じゃなくなることを。
 そして、決めたのだ。『好き』の気持ちを携えたまま生きていくことを。




 二次会の場所は、多国籍のお酒を出してくれる少し変わったお店だった。ダーツやビリヤードで遊ぶ場所もあり、席も決まっていないので、自由にウロウロできる。溝部さん行きつけの店らしく、入るなり溝部さんはマスターと親しげに話していた。溝部さんのオシャレポイントがぐんぐん上がっていく。

 一方の山崎さんは、なんだか居心地が悪そうだった。でも、さっと席を取ってくれたり、荷物を置く場所を確保してくれたり、飲み物を持ってきてくれたり、結構、女性慣れしてるんじゃないかな、と思わせる行動が多々みられたので、

「渋谷さんと桜井さんからは、お二人は『女性に縁がない』ってお聞きしてたんですけど……」

 炭酸がグラスの中で弾けている様子を見ながら、隣に座った山崎さんに聞いてみる。

「お二人とも、普通に女性の扱い慣れてますよね?」
「慣れ……ですか」

 山崎さんは、うーんと唸ってから、

「溝部はどうか知りませんが、私は仕事柄、女性と関わることは多いかもしれません」
「そうなんですか?」

 先ほどの一次会ではもっぱら高校時代の話で盛り上がってしまったため、現在の話をほとんどしなかった。でも実はそこに少し好感を持っている。『女医』ということに食いついて、根掘り葉掘り仕事のことを聞いてきたり、しまいには健康相談をしはじめる男共をたくさんみてきただけに、「高校時代何部だったか」「文化祭では何をしたか」なんて話ではじめから盛り上がった合コンは久しぶりだった。

「山崎さんは区役所にお勤めなんですよね?」
「はい。今は地域振興課っていう部署にいます」

 生真面目に答える山崎さん。ホントに真面目が服着てるみたいな人だな……。

「女性と関わることが多い部署なんですか?」
「ええまあ、後期高齢者の方が主ですけど」
「こう……っ」

 言い方がおかしくて思わず吹き出してしまう。

「えーと、後期高齢者ってことは……」
「75オーバーです。でも今のお年寄りは皆さんお元気ですよ」
「へえ……」

 何となく、おばあちゃん達に囲まれた山崎さんが想像できてほのぼのしてしまう。

「地域振興課って、具体的には何を?」
「今は大きな仕事としては、秋に行われる音楽祭の準備とか……」
「音楽祭……」

 別世界だなあ……
 へええ……と感心していたところ、

「何何?なんの話?」

 ダーツを終えたらしい明日香と溝部さんが戻ってきた。二人とも見たこともないような色をした飲み物を持っている。

「仕事の話。何だか別世界だなーって思って」
「菜美子はお医者さんだもんねー。他とは全然世界違うでしょ」
「そうかなあ……」

 この世界しか知らないから分からない……。

「でも、別世界、と言えば!」

 明日香がピッと指を立てた。

「渋谷さんと桜井さん! 私、本物のゲイのカップルって初めてみましたよー」
「明日香……」

 本人達がいないところでそういう話題ってちょっと……と思った私には気がつかず、明日香はにこにこと男性二人に話をふった。

「友人として、二人が付き合ってるって知ったときどう思いました?」
「どうって……」

 うーん、と溝部さんは首をかしげると、

「はじめは驚いたし、隠されてたことに怒りも感じたけど……」
「…………」
「今はラッキーだなあと」

 ラッキー?
 キョトンと皆で溝部さんを見返すと、溝部さんはいたずらっ子のように笑った。

「だってあいつらレベル高いから。明日香ちゃんも菜美子ちゃんも、あいつらの点数、オレ達より高くつけたでしょ?」
「……………」

 す、するどい。70点溝部さん。
 溝部さんはニヤリとすると、

「そんな二人が二人でくっついてるってことは世の中から二人も強力なライバルが減るってことで、ラッキーだな~と」
「…………なるほど」

 前向きというかなんというか。
 明日香が苦笑気味に溝部さんのグラスに「乾杯」とグラスを合わせ、黙っている山崎さんを振り返った。

「山崎さんは? どう思いました?」
「そうですね……」

 山崎さんは真面目にうなずくと、

「奇跡だな、と」
「奇跡?」

 山崎さん、フッと遠いところを見るような目になった。

「24年も同じ気持ちでいられるなんて奇跡なんじゃないかな、と……。しかも同性ってことで普通よりも障害は多かったはずなのに、あんな風に自然に、一緒にいることが当然、みたいに……」
「…………」
「奇跡っていうか……、あいつらが特別なんじゃないかなって……」

 4人4様に思いを馳せたため、沈黙が流れる……
 が、その沈黙を破ったのは、やはり溝部さんだった。

「いや、オレ達もこれからそういう相手に出会えばいいわけだろ?!」

 溝部さんは明るく言うと、私と明日香に手を差しのべてきた。

「どう? 明日香ちゃん、菜美子ちゃん。オレと24年後も共に生きる幸せを考えてみない?」
「あはははは」
「いや、明日香ちゃん、笑い事じゃないから。マジだから!」

 明日香と溝部さんのじゃれあうような会話を聞きながら、山崎さんを盗み見ると……

「…………」

 やはりまだ視線が遠いところにある。おそらく、彼の心の中には………

(おっと、いかんいかん)

 ついつい職業病がでてしまいそうになり、慌てて思考を停止させる。

 その代わり、山崎さんの器用そうな細い指を見ていたら、その手がヒロ兄のものと重なっていった。ヒロ兄の手は大きくて温かくて……

(24年も同じ気持ちでいられることが奇跡?)

 笑ってしまう。そんなこと奇跡でもなんでもない。だって私は知っている。

(私は、20年後も30年後も変わらない)

 ずっとずっと、ヒロ兄のことが好き。それは絶対に変わらない。そんなこと奇跡じゃない。当然のことだ。

 


---------------



お読みくださりありがとうございました!
ヒロ兄=峰広明先生、です。
菜美子より20才年上。現在、菜美子や慶の勤める病院の院長です。
親同士が親しい関係で、菜美子は小さな頃から遊んでもらったり勉強見てもらったりしてました。


山崎と菜美子、全然親しくなりませんねえ……大丈夫かな(^_^;)
ま。大人の二人にはゆっくりゆっくり近づいていってもらいます。お見守りいただけると幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします!!


そして。
こんな普通の物語を、クリックしてくださった方、見に来てくださった方、本当にありがとうございます。どれだけ励まされたことか………。よろしければ、また次回も宜しくお願いいたします!

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風のゆくえには~たずさえて1(山崎視点)

2016年07月06日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~たずさえて

 2015年6月20日(土)

 全員40歳になった記念同窓会の最中、委員長が『今だからいえること』を一人ずつ言え、と、皆にマイクを回してきた。

 皆から注目されていた渋谷は、ちょっと笑ってマイクを手に取り、穏やかな、でも強い意思のこもった声で、はっきりと告げた。


「おれと桜井浩介は、高校二年生のクリスマス頃からずっと付き合ってます」


 渋谷、あいかわらずキラキラしてるな……

 衝撃告白に皆がザワザワしている中、そんなことを思った。
 
 昔からそうだ。渋谷みたいな奴のことをカリスマ性があるというのだろう。なんで高校時代、こんな奴と同じグループでつるんでいたのか今だに分からない。

「元々おれが一年の時から浩介に片思いしてて……」

 女性陣から悲鳴が上がったが、渋谷は淡々と言葉を続けている。

「高2の冬にようやく両想いになれて、それからずっと……」

 渋谷が視線を向けた先には桜井が……
 微笑みあった二人。なんて愛しさに溢れた瞳………

(………あれ?)

 ふいに懐かしい感覚にとらわれた。
 なんだろう? 前にもこんなことがあったような………

 あれは………朝の教室。窓際の席……

『好きな人に好きって思ってもらえるのって、ホント奇跡みたいなことだよなあ』

 独り言のつもりでつぶやいた言葉だったのに、

『ホントだな。奇跡だな』
『うん……奇跡だね』
 
 渋谷と桜井がそう言ってうなずいて………
 そして、今の二人と同じように微笑み合ったのだ。愛おしい気持ちが伝わってくるような瞳で……

(あれっていつだっけ? ……ああ、溝部が鈴木をクリスマスに誘うとか誘わないとかそんな話をして……)

 ってことは、二人が付き合いはじめた頃ってことか。

(24年もたってるのに……)

 同じ瞳で見つめ合う二人……

(そんな奇跡、あるのか?)

 普通はない。少なくともオレにはないし、オレの周りの24年以上続いている夫婦だって皆、もう恋愛関係ではないと言っていた。
 お互いを好きになる瞬間だって奇跡なのに、それが24年も続くなんて……信じられない。

 

 その後、ぐでんぐでんに酔っぱらって立てなくなった桜井を家に連れ帰る手伝いをすることになった。

「送る代わりに合コン設定しろ!」

 溝部が渋谷に詰めより、なぜかオレも行くことになってしまったのだ。正直、合コンなんて面倒くさかったのだけれども、昔と変わらない溝部の強引さに引っ張られてしまい……


 渋谷と桜井の住むマンションは、3LDKのファミリー向けマンションで、子供の一人か二人、一緒に住んでいても良さそうな広さはあった。

 でも、玄関側にある2つの部屋は荷物部屋になっているそうで(しかもそのうちの一つは、このマンションの持ち主である桜井の友人の荷物部屋らしい)、送っていったオレと溝部はリビングにゴロ寝することになったのだが……

「うわー、お前らホントに付き合ってんだなー」

 リビング続きの洋間に置かれたダブルベッドを見て溝部が感心したように言った。オレもまったく同じことを思っていた。

(このベッドで一緒に寝てるなんて……)

 やっぱりまだちょっと信じられない……。


 でも、翌朝、嫌でも信じさせられてしまった。

 朝方、目は覚めたものの、タオルケットにくるまれたままぼんやりしていたところ、リビングと洋間の仕切りが開き(普段は閉めていないらしい)、渋谷が静かに出てきて、コップに水を注いで、また洋間に戻っていったのが気配でわかった。桜井も起きたらしく、ボソボソと話し声が聞こえてきたのだけれども……

「………溝部?」
「シーーッ」

 寝ていると思っていた溝部が、そーっと仕切りに近づき、ほんの少しだけ仕切りをあけた。

(それ、のぞきだろ)

 なんて思いつつも、つられて溝部の上から中を覗き……

「…!」

 その隙間から見えた光景に、息を飲んでしまった。
 朝日の射し込んだ薄暗い部屋。渋谷がベッドに腰かけた桜井のあごを持ち、唇を寄せていて………

(聖母マリア?)

 神々しい……とでも言うのだろうか。祝福のキス、とでもいうような……。
 いやらしさがまったくない。ただ、綺麗で………汚したくないと思うような清らかさで……

(あ………水を飲ませてたのか)

 一度唇を離し、コップの水を含むとまた、唇を寄せた渋谷。コクッと桜井の喉がなる。

「慶……」

 今度は、離れようとしたのを追いかけるように、桜井の唇が渋谷の唇に重なる。

(………うわっ)

 今度は神々しさとはかけ離れた、俗的な欲求。オレの知っている控えめな桜井とはまるで別人。渋谷を求める純粋な思いが溢れている。

(……オレ、キスなんて何年してないんだっけ……)

 なんだかクラクラしてきてしまう。

「ちょっと、待……」
「待てない……」

 戸惑ったように離れようとした渋谷を引き寄せ、桜井が強引に再び唇を重ねようとした………、その時。

「わっ」
「げっ」

 重心をかけすぎたせいか、仕切りがガタガタと外れて、その拍子に倒れこんでしまった。渋谷と桜井がビックリしたようにこちらを振り返っている。

「溝部? 山崎?」
「う……」

 そして、倒れたオレに押し潰された溝部が呻いている……。

「ご、ごめんっ」
「くそー……リア充め……。渋谷、合コンの約束忘れてないだろうな……」

 よろよろと起き上がりながら、溝部が合コンの確認をしているから笑ってしまう。

(合コン、かあ……)

 全然乗り気じゃなかったのに、ちょっと行きたくなってきた。さっきの桜井に影響されて、人恋しくなってしまったのかもしれない。

(あんな風に求めたことなんて……、げ)

 過ぎ去った年月を数えてみて、愕然とする。

(最後、10年くらい前か!? うわ……どんだけご無沙汰だよ……)

 そんなことを思っていたら、溝部が二人に合コンの相手について突っ込んで聞いているのが耳に入ってきた。

「戸田先生ってのはどんな方で……」
「心療内科の医者で……歳は……」
「三十前半ってとこじゃない? 美人だよ」
「美人女医……」

 美人女医!?

 思わず溝部と顔を見合わせニヤリとしてしまう。女医さんの知り合いはいないでもないけれど、みんな年上ばかりで……年下の、しかも美人女医なんて知り合ったことがない。俄然楽しみになってきた。

(美人女医。美人女医……)

 こんなことで心踊ってしまうなんて、まるで高校生に戻ったかのようだ。自分でも呆れてしまう。

(でも……)

『私のことはいいから、早くいい人見つけて結婚しなさいよ』

 ことあるごとにそう言ってくる母の笑顔を思って複雑な気持ちになってくる。
 この歳で合コン、ということは、もし上手くいったら、当然結婚を視野に入れた付き合いということになるのだろうが……

(結婚……かあ……)

 色々な思いが渦巻いてくる。

 そんな中、渋谷と桜井は、24年の付き合いのはずなのに、まるで新婚さんのようなノリで、当てられてしまう。同性なのに違和感がないのは、渋谷が相変わらず中性的だから、ということもあるのだろうけれど、二人がお互いを思いあっているということがヒシヒシと伝わってきて、疑問を挟む余地がないからだろう。

(ちょっと羨ましい……)

 そう思えるってことは、恋愛に対して少しは夢と希望を持ってるってことなのだろうか。

(美人女医……美人女医)

 どんな人なんだろう。ちょっと………いや、かなり楽しみだ。




---------------

お読みくださりありがとうございました!
『カミングアウト~同窓会編』後半部分の山崎視点でした。
約10年ご無沙汰の山崎君。アラサーとアラフォーじゃ体力も違うよ……ガッツリ文化系男子の山崎……大丈夫かな。浩介と一緒にスポーツジムでも行った方が……と心配になってきました。
ちなみに、『好きな人に好きって思ってもらえるのって、ホント奇跡みたいなことだよなあ』と山崎がつぶやいたのは『巡合12-1』でした。高校時代の慶と浩介……もう初々しすぎて……自分で書いたものを自分で読み返して自分でキャー(≧∇≦)とか言ってる安上がりな人間です私^^;

そんな感じで……明後日は戸田ちゃん視点です。合コン当日の話です。よろしくお願いいたします!


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