スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

大人になれなかった先生&レインスブルフ

2015-07-31 19:17:34 | 歌・小説
 先生と呼ぶ理由,戸棚,奥さんの呼びかけ。これらのエントリーにおいては,石原千秋の『『こころ』大人になれなかった先生』を参考にしました。この本自体について簡単に紹介しておきます。
                         
 題名からも分かるように,これは『こころ』に特化した文芸評論です。ただし,同じように題名から想像できるように,とくに先生について書かれたものであるかといえば,必ずしもそうではありません。三部構成となっていますけれど,第一部は確かに先生についての記述ですが,第二部は私について,そして第三部は奥さんについての記述が多く含まれています。
 石原は基本的に僕のいう作家論と作品論では,作品論の方を重視します。この本も確かにその傾向が強く出ていて,『こころ』のテクストをどう解読するかということが中心のテーマです。そしてこの本は,石原が解読するための『こころ』のテクストが,そのまま掲載されています。つまり本全体の分量のうち,概ね4分の1くらいは,『こころ』のテクストです。このような手法を採用したことについて石原は,『こころ』に限らずもう漱石が読まれなくなっているということを身に染みて感じているからだとしています。ただ,僕はさすがにこれは親切すぎるというか,丁寧すぎるように感じました。そもそも漱石のテクストを知らない読者が,ここに掲載されている部分的なテクストを初めて読んだだけで,石原が論じていることを理解することができるというようには僕には思えなかったからです。
 同じ石原の『反転する漱石』に比べると,ずいぶん読みやすくなっています。これは石原が読者として高校生を想定しているためのようです。研究のレベルを落とすことなく読みやすい文体を作るということが石原のテーマで,それを最も徹底したのがこの本であると石原はいっています。成功しているのかどうかは,各々で判断するほかないでしょう。

 「天文学者De astronoom」が描かれた1668年以前に,レーウェンフックAntoni von Leeuwenhookがレンズの研磨に関わるスピノザの名声を知り得たこと。それがマルタンJean-Clet Martinの推理を成立させる必須条件です。
 『フェルメールとスピノザBréviaire de l'éternité -Entre Vermeer et Spinoza』では,レーウェンフックはスピノザが磨いたレンズを用いて赤血球を発見したことになっています。これが史実で1668年以前の出来事であれば,それ以上の調査は不要です。しかし僕が有する資料では,史実であると確定できません。さらにマルタンは発見がいつのことであったかも明示していません。これでは推理の正しさを僕は証明することができません。ですからここでは別の探求をします。
 まず,「豚のロケーション」に示されているレーウェンフックの『ミクログラフィア』は,1664年に書かれたものです。したがってレーウェンフックはそれ以前に顕微鏡を使った研究を開始しています。なのでレーウェンフックに,1668年以前にスピノザを知る契機があり得たことは僕は認めます。
 『スピノザ往復書簡集Epistolae』書簡一は,オルデンブルクHeinrich Ordenburgが旅を終えてロンドンに帰ってすぐにスピノザに出したものです。日付は1661年8月16日付。このときスピノザはレインスブルフRijnsburgに住んでいました。
 ファン・ローンJoanis van Loonは1660年にライデンLeidenでスピノザに会っています。それによればスピノザは1656年のおそらくパフォーマンスによる追放の後,活動拠点はアムステルダムにあったと僕は思いますが,アウデルケルクAwerkerkの近くに家を借り,光学を勉強しました。子どもの頃に,レンズを磨く手仕事を習得するため見習いに出された時期があり,当時から光学に興味を抱いていたため,本格的に勉強したとなっています。ただ,アムステルダムにスピノザを指導者と名乗る宗教家が現れ,それが本意でなかったので,アムステルダムから離れたレインスブルフに引越したというのが,スピノザがローンにした説明です。つまり1660年の時点でレインスブルフにいたことになります。
 レインスブルフは宗教に関して独自の意見をもつことに寛容な地であったそうです。ローンはスピノザにとっては理想の地であったと書いています。

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