南青山2丁目に「無事庵ほ乃可」という和食とお酒の店がある。小さいお店だが小ぎれいで雰囲気のいい店だ。飲み友達のN氏が、近くにオフィスを持っていることから、ときどき顔を出してゆっくりとしたひと時を過ごしている。
先日N氏から「ほ乃可のママさんから『酒は風』の書ができたからいらっしゃいという電話があった。久しぶりに一杯やろう」という誘いがあった。思い起こせば大分前に、『酒は風』(英伸三夫妻との共著、大月書店)の話をしたことがあった。京都の版画家井堂雅夫氏が、岩手の酒蔵と酒は風という酒を作り、その画を描いて拙著の出版を祝ってくれた話であった。
思えば『酒は風』を出して十数年が経つ。6刷までいって昨年絶版になった私の最初の出版物だ。 その話を聞いてくれた「ほ乃可」のママさんが、書家であるお母様に頼んで、酒は風と書いて頂いたというのだ。なんともうれしい話だ。
早速「ほ乃可」を訪ねてみると、既に掛け軸となって店に飾ってあり、わたし用に色紙が用意されていた。 それは、柔らかい筆遣いの実に斬新な「酒は風」であった。私はまだお母様にお会いしてないが、相当なお年のはずである。しかしお年寄りの書とは思えない斬新な「風」に、私はこのような方々が常に若い精神を持ち続けているのだとつくづく思った。
実にすがすがしい気分で私はかなりの量を飲んだ。
頂いた色紙はわが書斎に架けられ、十数年に及ぶ『酒は風』の歴史を回想させてくれている。