昨夜、疲れを癒そうと風呂に入ると、根っこのついた菖蒲(しょうぶ)が束ねられて浮いていた。
・・・ああ、今日は端午(たんご)の節句か・・・・・・
と、私は菖蒲の浮かぶ湯舟に四肢を伸ばした。
昨日は、二日遅れの結婚記念日(1963年5月3日結婚)を祝おうと昼前に出かけ、日比谷で映画を見て、帝国ホテルの「なだ萬」で、ちょっとはりこんだ昼食をとった。散歩がてらに買い物などをして帰宅したのは、かれこれ夕刻であった。
妻はいつの間に菖蒲を買っておいたのだろうか。
年越し蕎麦(そば)から雑煮(ぞうに)、七草粥(ななくさがゆ)にはじまり、3月には雛(ひな)を飾り、5月には菖蒲湯(しょうぶ-ゆ)を沸かす。土用(どよう)の丑(うし)の日には無理をしても鰻(うなぎ)をとり、冬至(とうじ)には柚子湯(ゆず-ゆ)に入る・・・。妻はこのような四季の営みを忘れることなく行う。
菖蒲は「邪気をはらう」と言われ、柚子は「しもやけやあかぎれに効く」という。夏の暑気は、鰻の精力を借りて乗り切ろうとするのであろう。太古から日本人は、このように自然とともに生きてきたのだ。
私などは仕事にかまけて、このような先人の知恵すら忘れている。それを忘れることなく、さりげなく行ってくれる妻を愛しく思う。
今の若い世代に、どの程度このような伝統が残り、伝えられているのだろうか。