アメリカに行ってスコッチ・ウィスキーを飲もうという気にはならない。やはりバーボン・ウィスキーを飲みたいと思うから不思議だ。トウモロコシを主原料としたカラッとした飲み口は、広大な天地と明るく陽気な国柄に合うし、大まかな焼き方のステーキや、ハンバーガーなどをかじりながら飲む酒には、あの埃っぽい感じの香りがマッチする。
と言っても、私は日本でも有名で一般的なバーボンしか飲んでいない。その銘柄と起源、醸造地は以下の通り。
銘 柄 創業年 醸造地
ワイルド・ターキー 1855年 ケンタッキー州
アーりー・タイムズ 1860年 同上
ジャック・ダニエル 1866年 テネシー州
I・w・ハーパー 1897年 ケンタッキー州
ブラントン 1984年 同上
(成美堂出版「洋酒の事典」より)
これらの乾いた味が何ともいえない。中でも好きなものがブラントン。味もさることながら、ビロードの布袋と栓の上にあしらわれた《駆ける馬》の格好が良い。これについてこぼれ話を一つ。
1988年、二度目の渡米でブラントンに目を付けていた私は、帰りのU航空機で免税品として売っていることを知り、何としても買いたいと思い、日本人スチュワーデスTさん(そう! 私はそのフルネイムを今も覚えている!)に、着席後まもなく予約を申し込んだ。後部席であったので売り切れを心配したからだ。Tさんは「分かりました。夕食後回るので申し込んで下さい」と、売り子に渡す英文メモまで書いてくれた。ところが、案の定、私の前の席ででその品は売り切れた。
当然私は無念の胸のうちを告げて、彼女に苦言を呈した。しきりに謝った彼女はしばらくして「社からのお詫びのしるし」とワイン一本持参し、加えて「よろしければ成田の免税店で同商品を購入して後日お送りしたい」と申し出てきた。成田の税関で若干の手続きと時間を要したが、彼女は最後までそれに立会い、約束の品は一週間後に我が家に届いた。
馬の駆ける姿をあしらったブライトンの空瓶は、今も私の書棚に飾られている。それを見る度に、U航空という会社とTさんの素晴らしいビジネスに、感謝と尊敬の念がこみ上げてくるのである。