今日は立秋。暦の上では秋である。この暑さと、スコールのような集中豪雨の襲来は、秋などない熱帯地方の様相であるが。
この時期になると思い出す俳句がある。
おい癌め酌みかはさうぜ秋の酒
という俳人江國滋の辞世の句である。
江國は1997年2月6日に食道癌を告知され、約半年、187日の闘病生活の末、同年8月10日にこの世を去った。その間闘病日記を書き続け、膨大な闘病俳句を世に残した。
退治しても退治しても転移を繰り返す癌との闘いは壮絶を極めたが、ついに8月8日、「敗北宣言」と題してこの句を書き記し、二日後の10日に逝った。
闘病日記は2月5日書き始められ、最初の闘病句は2月6日の、「立春の翌日に受く癌告知」であり、最後の句は立秋の翌日の「おい癌め酌みかはさうぜ秋の酒」となった。
江國はどのような思いで秋を迎えたのであろうか? 敗れた相手とはいえ、とことん付き合い闘いつくした癌のことを、「癌め」と親しく呼び、ようやくたどり着いた酒のおいしい秋に、その「秋の酒」を酌み交わそうとしたのだろう。
これが「夏の酒」では句にならなかっただろうから…。