この歌の最初の言葉にあるように、この時期になれば必ず「思い出す」歌である。江間章子の、これまた歌の中に出てくる「夢みる」ような美しい詩に、中田喜直が、歌いやすくかつフレッシュな曲想をつけた名曲である。
夏がくれば 思い出す
はるかな尾瀬 遠い空
霧のなかに うかびくる
やさしい影 野の小径
水芭蕉の花が 咲いている
夢みて咲いている水のほとり
石楠花色に たそがれる
はるかな尾瀬 遠い空
昭和24年、NHKのラジオ歌謡として生まれた曲。昭和24(1949)年といえば、日本国民が戦後の復興、新しい日本の建設に取りかかろうとしていた時期。同じくラジオ歌謡の「山小屋の灯」などとともに、未来を夢見る日本国民の心に灯をともし続けた歌である。
実は私は、未だ尾瀬に行ってていない。数回は行く機会があったのだが、不思議に計画がぽしゃって尾瀬を見ていない。戦後この歌にさそわれて夢見た尾瀬は、六十有余年を経てまだ私の夢の彼方にある。尾瀬の美しさは多くの写真でも見せられたし、多くの人が語ってくれた。そのたびに私の脳裏に浮かぶのは、「やさしい影 野の小径」(1番)であり、「ゆれゆれる 浮き島」(2番)であった。私はその光景を「はるかな 遠い空」に夢み続けていくのかもしれない。
それにしても、このような美しい詩曲を残してくれた詩人と作曲家に感謝する。江間章子は他にも、團伊久麿の曲で「花の町」なども残し、これも多くの人に親しまれた。また中田喜直は、「小さい秋見つけた」(サトウハチロー詩)など多くの童謡と、「雪の降るまちを」(内村直也作詞)などの名曲を残してくれた。シャンソン風に歌い上げた高英男の「雪の降るまちを」は、日本国民に新しい歌の存在を知らしめたといっていいだろう。
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