島国の日本は、四方を海に囲まれ、また豊かな山々を流れ落ちる清流に恵まれている。好むと好まざるとにかかわらず魚に恵まれ、魚を食べて育ってきた。生で食べ、焼いて食べ、煮て食べるが、当然ながらその卵や臓物なども工夫して食べてきた。いわゆる珍味と言われるもの中には、この魚卵や臓物の類が多い。そしてこの類は、酒飲みがそのつまみとして最も好む一種である。
もちろん酒飲みだけでなく、魚卵食は、正月の数の子(鰊の胎卵)、子供にも人気のいいイクラ(鮭の卵)やたらこ(スケトウダラの卵)など、朝夕の食卓に並ぶものも多い。しかし、このわた(ナマコの卵巣、腸)、うるか(鮎の腸と卵)や、いわゆる塩辛の類となると、専ら酒飲みの相手となる。
塩辛は、必ずしも魚卵などばかりではなく、イカの塩辛のように塩漬けした上に麹を加えた保存食で、一般の食事にも供される。しかし、前述のうるかやガゼ(ウニの卵巣)、また酒盗のたぐいになると「お酒の珍味」という役柄となろう。
魚卵の塩蔵品としては、私はからすみを好む。中でも生からすみを最も好む。
からすみは、ボラの卵巣を塩漬けし、その後に塩抜きして干し固めたものが一般的であるが、私は生からすみを好む。干し固めたものをおいしいと思ったことはあまりないが、生からすみは酒の友としては最高である。
行きつけの飲み屋として何度か書いてきた店に、西新宿の『吉本』があるが、ここに行けば長崎産の生からすみが必ず食える。この店には、「酒の友 珍味」として次の13品が掲げられている。かきの塩辛(三重)、ホタルイカ沖漬(富山)、子の綿(能登)、塩ウニ(礼文島)、鮎うるか(岐阜)、生からすみ(長崎)、蟹味噌(鳥取)、ホヤ塩辛(宮城)、蜂の子(長野)、ままかり酢漬(岡山)、氷頭(北海道)、かつお酒盗(和歌山)、蟹内子(釧路)、である。
酒の注文とともに、この中から必ず何品か頼む。もちろん、生からすみを外したことは一度もない。
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