「金を儲けることは悪い事ですか。 私はメチャメチャ儲けました」。
「儲けすぎたから嫌われるのですかね」。
村上ファンドの村上代表は逮捕前の独演会で,このように開き直った。
その発言を受けて、麻生外務大臣が皮肉をこめて切り返した。
「その儲ける手法が嫌われるのだよ」と。
その嫌われる違法な手法でメチャメチャ儲けた村上ファンドに日銀総裁が投資していた。
しかも日銀総裁に就任する前は村上ファンドの顧問をしていた。
民間人が何所の会社の顧問をしようが、どの会社に投資しようがそれが合法である限り他人にとやかく言われる筋合いはなかろう。
しかし福井氏が日銀に就任した後も投資を続け、利益を得ていたことは不可解だ。
小泉首相は「問題はない。 日銀内規にも触れていない」と云う。
が、「世間から些(いささ)かなりとも疑念を抱かれることが予想される場合には……個人的利殖行為は慎まなければならない」。
これは日銀自身が定めた「日本銀行員の心得」の一節だ。
それにこれは日銀内規にあるなしの問題ではない。
日銀総裁には、国の経済の未来を左右するほどの力と責任が、国民から託されている。
いわばインサイダー(内部にいる人)の総本山に鎮座して、一般国民の知らないあらゆる情報を知りうる立場にある。
いや日銀総裁の存在それ自身がインサイダーそのものなのだ。
その強大な力を備えた人が、違法な処方で「メチャメチャ儲けた」と豪語する投資ファンドに投資していたとしたらこれが問題でなくて何が問題だ。
公人たる日銀総裁が私的な動機で動きかねないなどと見られては、国民からの信託も崩れてしまうだろう。
村上ファンドは堀江・ライブドアののイメージとは異なり法令順守には厳格で、弁護士、証券のプロ、税理士など専門家を配し、細部にわたってチェックしているため、今回のようなバレやすい過ちは犯すはずがないと言われていた。
当然堀江被告以上に、徹底否認で長期戦に望むと考えられていた。
しかし、村上氏はインサイダーをいとも簡単に認め謝罪し業界からも引退するという。
なぜこうもあっさりと引いてしまったのか。
裁判をすれば長期化する。
すると、知られたくないような事まで検察やマスコミに追及され、驚くような事実や推測がボロボロ出てくるかもしれない。
罪状認否については、村上被告は堀江被告と対照的だ。
堀江被告は事件について否認を続け、自分が助かれば周りの仲間や恩人まで犠牲にしてもかまわない、というような対応だ。
村上被告は『全て自分の責任』として罪を被り、周りの人間を守ろうとしてる感がある。
村上被告がが守ろうとしているのは村上ファンドの親分といわれるオリックスの宮内義彦オーナー。
それに以前から顧問として親密な関係にあった日本銀行の福井俊彦総裁ではなかったか。
福井総裁が村上ファンドへの投資を解約したのは二、三ヶ月前だと言われるが、その時期は堀江被告の逮捕劇が有り、次の地検のターゲットは村上ファンドだと囁かれていた時期だ。
日銀総裁という地位におればその辺の「インサイダー情報」は充分承知で村上ファンドを切り離したのではなかったのか。
明日、福井総裁は記者会見に応じると聞く。
「日本銀行なる者は一人一個の私利を謀るものに非ず、公利公益を主眼とし、徒(いたずら)に商業社会の狂涛に揺がされず……」。
これは日銀創業の開業式で、松方正義・大蔵卿が述べた訓示だと言う。(『日本銀行百年史』)
天下の日銀総裁なら百も承知だろうが、敢えて言おう。
「李下に冠を正さず」と。