高校の頃の思い出なんてろくなもんじゃない。
「あのせぇ、場内さへったとき、誰かさ、背中をポンと叩かれたでおのぅ」
「おれも、だれかさ背中叩かれたでぁ」
「あれよぉ、ひょっとして、副顧問でねべかぁ」
「んだぁ。いっつも背中叩いて励まして けれたべせぁ」
高校2年の剣道の県大会。いつものようにぼくらの学校は、初戦敗退。
それも、5人の試合メンバーがそろいもそろって一勝もできずの完敗。
いくら、伝統のある強豪校との対戦とはいえ、情けないかぎりだった。
試合が終わって地元に帰る汽車の中で、「試合前に礼をして試合場内へ入ろうとするその背中を、だれかに励まされるように、ポンと叩かれたような気がする」という話がはじまった。
それも、つい先日亡くなった部活の副顧問をしてた臨採講師がいつもしてくれてたように・・・。
みんなが口をそろえて言う。きっと、副顧問が応援してくれてたんだべと。
・・・一応、ぼくも、あいまいに調子を合わせたものの、そんなことは少しも思ってもいなかった。
ただ、引き分けで終わったぼくの試合の後、対戦相手が驚いたような顔でやってきた。面をとったぼくの顔がまるで別人に見えるというのだ。試合中に面越しに見たぼくの顔は、鬼のような恐ろしい顔つきに見えて、気圧された彼は怖くて技をまったく出せなかったという。
苦笑するしかなかった。たしかに、同じ2年生の対戦相手はなぜか守勢一方だった。試合は、0-3で副将戦という経過だったから、もう、ぼくのところで団体戦の敗退は決まっていた。団体戦の勝敗が確定した後の試合。なにもビビることはなかろうに・・・。
鬼の顔?剣道をやったことがある人はわかると思うが、試合相手と正対する時は無心でなくてはならない。怒りや迷い、恐怖などの感情は、剣道ではマイナスでしかない。しかも、ぼくはその試合なんてどうでもいいやと投げてたというのに。はあ?怒り狂っているように見えた??
帰りの汽車の中で、この試合で引退する3年生を中心に、来週末に有志者で副顧問の墓参りに行くことになった。産休教師の穴埋めだった副顧問は、大学を卒業したばかりの若い女性で、みんなの人気者だった。剣道は未経験だったものの、彼女の周りは取り巻きの生徒たちで笑い声が絶えなかった。だが、嫌味な中年の部活顧問と仲が悪かったぼくは、副顧問の彼女とも話をしなかった。つねに、ふてくされた態度のぼく。だから、彼女もぼくを嫌っていたにちがいない。
副顧問は県大会前に亡くなった。なんで死んだのかは、だれもが教えてくれなかった。噂では失恋して、ビルの屋上から飛び降りたと聞いたのだが・・・。
とにかく、副顧問とはそんなに親しくない関係だったから、ぼくは彼女の墓参りには参加しなかった。
みんなが副顧問の墓参りに行った夏休みも終わりに近い日曜日、ぼくは一人で学校にいった。暇つぶしに覗いた道場では、その半分に畳を敷いたスペースで柔道部が練習をしていた。
いつもはドタバタ騒がしい剣道のスペース部分は、しんと静まり返っていた。
手持無沙汰だったので、稽古着に着替え、道場の鏡の前で素振りをした。鏡をいくら睨んでも、そこにはニキビ面の間抜けな顔が映ってるばかりで、他人が見てビビってしまうような鬼の顔なんて、どう凄んでみてもそんな顔つきにはならない。。
ひと汗かいて稽古着を着替えたら、練習を終えた柔道部の後輩たちが顔をのぞかせた。
なんでも、素振りしているぼくが、見目麗しき女性の姿に見えたとのこと。・・・苦笑するしかない。下手とはいえ男の素振りは、女性のそれとはスピードも気迫も違う。それを女が素振りをしているように見えたというのだから・・・。
翌日、学校で、墓参りに行ったみんなから、タレネーム(垂の中央に付ける所属名と本人の名前を書いた袋状の名札)を渡された。だいぶ前に、練習中に鼻血を出してタレネームにかかり、それを放っておいたらカビだらけになってしまって、部室のゴミ箱に捨てたヤツだった。・・・だから、県大会は、垂に白いチョークで名前を書いて出場していた。
タレネームは、きれいに洗濯されていた。副顧問が洗ってくれてたものを家の人があずかってくれていたようだ。
きちんとアイロンがかけられたタレネームを手にして、なんだか鼻の奥がつーんとなった。
・・・あいつ、シロウトのくせして、ぼくの代わりに竹刀を握ってこの前の県大会の試合に出てくれたんだろうか。ぼくの背中をポンと叩く代わりに。・・・よわっちいぼくに加勢するために。一生懸命、怖い顔をして。。
さて、今年の夏ピーク。
盆休みが終わり、工場が一斉に稼働を始めたのですが電力逼迫はかろうじてクリアできたようです。残暑もあと少しの辛抱です。節電をがんばりましょう。東北地方に電力を回すためにも。。
ということで、さらなる節電のため(?)、これまでご協力を頂きました今期のブログエアコンの運転は終了させていただきます。
mikiさん、長くお付き合いくださいましてありがとうございました。
どこかの海でお会いした時は、百物語の続きはやめておきましょうね。
冷え冷えになるのは苦手なので・・・
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