仕事帰りに寄るジムのプール。ビルの窓から見える駅前の夕暮れ。2012年の夏の空がそこにあった。
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真夜中のジムのプール、そこで自らの命を絶つ一人の女性。
死の理由は不明だ。恋の悩みなのかも知れない。借金がかさんでの無理な取り立てや派遣切り。結婚に対する不安かもしれない。職場でいじめがあったのかもしれない。
あるいは日本学生選手権水泳競技大会の出場を目指して、一般会員が帰った後のプールで、一人黙々と練習中のバイトの学生コーチの事故。心室細動だ。激しい運動が原因で起こる「スポーツ貧血」が直接の原因だったのかもしれない。薄れゆく意識、様子を見に来た仲間のコーチの叫ぶ声、救急車のサイレン、救急病院のICU、霊安室、この世にやりのこした「こと」、無念。
ともかく、そこでひとつの命が失われた・・・にちがいない。
そして、そのプールで次々に幽霊会員が出没する。自殺や事故とは何の関係もない新加入会員の幽霊会員が出没しだす。
この幽霊会員を消滅させる方法は現代の科学ではわかっていない。しかし、幽霊会員が元に戻ってくる可能性は低いものの、ゼロではない。
あの泣く子も黙る過酷なビート板キックの練習を少なくすれば、生徒、すなわち、幽霊会員が戻ってくるのかもしれない。しかし、鬼コーチが怖くて口にできる人はいない。
っつうことで、大竹コーチの練習がきついっすけど、佐野さんプールに戻ってきてね。生徒が少ないと、泳ぐ順番がすぐにまわってくるので、大変でつ。
・・・人よんであたしは準幽霊会員。
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