司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

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「判例変更の限界 -民法に関する最高裁判例の検討-」

2017-02-16 10:26:01 | 民法改正
川井健「判例変更の限界 -民法に関する最高裁判例の検討-」1967年3月28日
http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/16082/1/17(4)_p1-55.pdf

 故川井健一橋大学名誉教授の50年前の論文である。

 先般(平成28年12月19日),最高裁大法廷決定で,「共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となる」と判示され,その実務への影響が問題となるところであるが,本論文は,このような判例変更について,重要な指摘をしているように思われる。

 今回の判例変更を,川井論文に言う「慣習肯定」(「相続人全員の同意を得て遺産分割の対象とする家裁実務」の肯定)と捉えるのか,「慣習否定」(「従来の最高裁判例の下に積み重ねられてきた実務」の否定)と捉えるのかによって,受け取り方は大きく異なることになろうが,後者と解することになろうか。


「少なくとも法例2条(現「法の適用に関する通則法」第3条)に関するかぎり,一たび最高裁がある一般実務を肯定する判決を下した以上,そこに客観的にみると慣習法が確認されたこととなり,当事者の主張・立証にかかわらず爾後は慣習法として妥当すべきこととなると考えられる」※48頁4行目~

「政策的理由からみて「慣習否定」の「理論の判例変更」は妥当でない。すなわちかような判例変更は,従来の判例を前提にしてきた取引行為や身分行為を根本的にくつがえすことにより法定生活の安定を害し,不慮の損害を人々にもたらすこととなる。しかも立法による改正の場合には経過措置により行為時法主義が採用される余地があるのに,判例変更の場合には遡及的に法が改められることとなる。」※48頁最終行~

 というわけで,「「慣習否定」の形での「理論の変更」についての判例変更に関するかぎり,もはや確立された判例を維持するほかはなく,立法的解決以外に途はないと考えられる」(50頁)との論である。


 今回の判例変更により,遡及的に慣習法(従来の最高裁判例の下に積み重ねられてきた実務)が改められたことになったわけであり,預貯金債権について既に「相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割」で処理された事件について,蒸し返し紛争も予想されるところである。

 また,銀行実務も,判例変更を受けて,対応を検討中のようであるが,微妙に取扱いに差異が生じているとも聞く。

 さてさて・・。
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