司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

会社法及び商業登記に関する話題を中心に,消費者問題,司法書士,京都に関する話題等々を取り上げています。

「株式会社の発起設立の登記の申請書に添付すべき会社法第34条第1項の規定による払込みがあったことを証する書面の払込みの時期について(通知)」

2022-06-14 21:06:12 | 会社法(改正商法等)
「株式会社の発起設立の登記の申請書に添付すべき会社法第34条第1項の規定による払込みがあったことを証する書面の払込みの時期について(通知)」(令和4年6月13日付け法務省民商第286号法務省民事局商事課長通知)が発出されている。

「預金通帳の写し又は取引明細表その他払込取扱機関が作成した書面に記載された払込みの時期については、設立時発行株式に関する事項が定められている定款(商業登記法第47条第2項第1号)の作成日又は発起人全員の同意があったことを証する書面(同条第3項)に記載されているその同意があった日後に払込みがあった場合はもとより、その前に払込みがあった場合であっても、 発起人又は設立時取締役(発起人からの受領権限の委任がある場合に限る(平成29年3月17日付け法務省民商第41号民事局長通達参照)。)の 口座に払い込まれているなど当該設立に際して出資されたものと認められるものであれば、差し支えない。」


 ん~。早速柔軟化がされてしまった。

「株式会社発起設立時の出資に係る払込みの時期について、設立時発行株式に関する事項が定められている定款の作成日又は発起人全員の同意があったことを証する書面の同意があった日前に払込みがあったものであっても、発起人又は設立時取締役(発起人からの受領権限の委任がある場合に限る。)の口座に払い込まれているなど当該設立に際して出資されたものと認められるものについては、設立登記申請の4週間前など近接した時期のものであれば、出資に係る払込みがあったものと認めることとする。」(後掲記事)

cf. 令和4年5月27日付け「スタートアップに関する規制・制度見直し(法人設立手続の迅速化・負担軽減)」

 基本的な考え方として,発起人が引き受けるべき株式数について合意がされた後,払込みがされることによって,その議決権の数が確定し,設立時取締役等の選任が可能となる(会社法第40条第2項本文)。口座への入金によって出資の払込みがされたというためには,その時点において,発起人間で各々が引き受ける株式数に関する合意が成立していることが不可欠であり,また合意が成立していたはずである。

 したがって,上記商事課長通知のような規制緩和(?)をしなくても,発起人全員の同意があったことを証する書面を追完させるか,当該同意があった日について補正させれば足りるのである。司法書士としては,申請前に,事情の聴取りをして,そのような補充書面の準備をすべきである。

 このような過度な規制緩和が進めば,商業登記制度は,単なる「登録」制度(添付書面は不要)に堕することになりそうで,危機感を覚えざるを得ない。
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会計監査限定の登記の抹消失念に関する異聞

2022-06-14 19:42:30 | 会社法(改正商法等)
 監査役設置会社の定めを廃止する登記を申請するときは,会計監査限定の登記についても,同時に廃止の登記の申請をする必要がある。

 これをうっかりした場合に,補正になるのではなく,登記官がこれをスルーして,「監査役の監査の範囲を会計に限定する旨の定款の定めがある旨の登記」だけが残ってしまう事件が少なくないらしい。

 びっくり仰天話としては,他管轄への本店移転の登記の際に,旧本店所在地において監査役設置会社の定めを廃止する登記を申請し,会計監査限定の登記について同時に廃止の登記の申請をすべきをうっかりしたところ,新本店所在地の登記に,「監査役の監査の範囲を会計に限定する旨の定款の定めがある旨の登記」が燦然と輝いてしまった事件もあったらしい。

 あきさみよ~。

 例えば,設立の登記を申請する際に,「監査役設置会社の定めの登記」をうっかりし,「監査役の監査の範囲を会計に限定する旨の定款の定めがある旨の登記」のみを申請すれば,間違いなく補正になるであろう。

 もとより,責められるべきは,うっかりした申請人サイドであるが,登記所においても,きちんと補正にかけて,然るべき登記が適時にされるようにお願いしたいものである。

cf. 平成29年4月14日付け「会計監査限定の登記の抹消」

(再掲はじめ)
 監査役の監査の範囲を会計に限定する旨の定款の定めがある旨の登記がされている場合に,監査役設置会社の定めを廃止する登記を申請するときは,会計監査限定の登記についても,同時に抹消の登記の申請をする必要がある。

 あくまで申請する必要があるのであって,職権抹消にはならない。

 うっかり忘れて,あるいは不要だと思って,申請しなかったら,どうなるのか?

 通常は,補正でしょうね。

 ところが,会計監査限定の登記はそのままに,監査役設置会社の定めを廃止する登記が完了してしまった事例があるらしい。

 ん~(^^)。

 会社法施行時には,機関設計に関する登記で,相互に関連するものは,同時に抹消又は変更の登記を申請するのでなければ却下,という議論があった。例えば,解散の登記を申請する際に,株式譲渡制限に関する規定の「取締役会」を変更する必要がある等である(松井信憲「商業登記ハンドブック(第3版)」(商事法務)374頁以下)。

 今回の事件は,正にそのレベルのものであるが。

 登記官にもうっかりがあるということであろうが,とまれ,申請する必要があるので,気を付けましょうね,というお話。
(再掲おわり)
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