艶やかなピンクのトックリのセーターは美里自身が編み上げたものだ。
彼女はワンレグの髪をアップにしており、23歳の年齢より大人びて見えた。
人妻のような色っぽさも漂わせていた。
ポニーテールの美里を授業中に後ろの席から見ながら、ノートにボールペンで描いたこともあった。
「相変わらず、競馬やっているの?」コーヒーカップを手にしながら聞く。
徹は黙って頷いた。
「損ばかりしているのね」上眼となって尋ねる。
「運がないんだ」徹は自嘲気味に言葉を返した。
そして緑のソーダー水を飲む。
徹はコーヒーが苦手であった。
メランコリーな気分になるコーヒーは彼にとっては禁忌である。
ハチ公の像がある広場の通りの向かい側の喫茶店で待ち合わせをするのが2人は常であった。
「まだ、彼女できないの?」美里は何時もの嫌味を言うのだ。
「彼女?目の前にいるじゃないか」徹はマジである。
「私はダメ、彼氏がいるでしょ」突き放される。
先日は「これから、成田へ行こうか?」と美里唐突に言う。
「成田、危ないよ」徹は腰が引けた。
「成田闘争を一度、見て置きたいの」美里はマジである。
「それじゃ、鎌倉にしよう」
「俺は、競馬に行きたいんだ」
「競馬か?一度行ってみようか」美里が乗り気になったのが意外であった。
財布に5000円しかない徹は、渋谷の場外馬券場へ行こうと思っていたのだ。
だが、美里は「府中競馬場へ行ってみたい」と言うのだ。
「お金あまり持っていないんでしょ。交通費なら私が出すわ」美里の鋭い感覚に、徹は冷笑を禁じ得なかった。
「これでは恋いにならない」徹は心の内でつぶやく。
渋谷駅から井の頭線で明大前まで行き、京王線に乗り換えた。
二人が通っていた高校が下高井戸にあった。
昼の時間には、三井牧場で寝転んで2人で空を仰いだことがある。
「徹君は詩人になるの?」
「できればね」
「お金持ちにはなれないね」徹は、美里は高校生のくせに現実的な娘だと呆れた。
下高井戸を電車が通過した時に美里は「沢村さんは、どうしているかな?」と窓に目を転じた。
美里が恋いした先輩である。
府中駅から競馬場まで2人は歩いた。
府中図書館に勤めている同期生の本間悟のことが思い出された。
「そうなの、本間君は図書館にいるんだ。本好きだったから良かったわね」美里は彫刻が好きで、彫刻家の息子の本間に敬意を抱いていた。
「これが競馬場なのね!」美里は、想像以上に広々とした馬場にまず感嘆した。
そしてメインスタンドより内馬場の方へ行きたがった。
「女の子、以外に多いのね。競馬場ってオッサンばかりと思っていた」美里は認識を新たにしたようであった。
美里は冬枯れに近い内馬場の広場の上を走った。
「まだ、美里速く走れるじゃん」徹は美里のきれいな走りに今更、驚いた。
「陸上の練習のこと、思い出すな」美里は2、3回ランを繰り返した。
高校総体で400㍍に美里は出場し、3位であった。
徹はビールを飲む。
美里はコーラーを飲んだ。
7レース、8レースは馬券を買わずにレースを見た。
9レースは岡部騎手が乗った馬が人気となり、本命サイドで決まった。
徹はそれを2000円買っていた。
配当は480円であった。
次の10レースでは5000円失ってしまった。
それでもメインレースの資金は残っていた。
徹はリーディングジョッキーに期待して馬券を買った。
一方、美里はスポーツ新聞の「夢馬券」のコラムに注目した。
夢はあくまで夢で大穴の予想である。
「私のこの馬に賭けてみようかな?」8枠の一番の人気薄馬である。
同じ8枠の別の馬も人気薄であった。
美里は8枠のゾロ目の馬券を買ってから、徹に「他にどの馬を買うべきなの?」と意見を求めた。
「2枠と3枠の馬かな」5連勝中の馬と前回のレースで圧勝した馬を勧めた。
美里は一番人気薄の単勝馬券も買っていた。
さらに複勝馬券があることを知って、その人気薄の馬にも賭けていた。
結果は、夢馬券が実現する大波乱となったのだ。
そして、美里は実に57万円を払い戻したのだ。
「徹君、こんなことがあるのね。夢のようね。信じられない!」美里は興奮し頬を紅潮させ、肩で息をしていた。
「徹君に半分あげる」と言う。
「いいよ。気持ちだけで」と断ったが、美里は7万円を徹のスーツのポケットに入れた。
美里は医師の彼氏を思い出して、「彼が来月、アメリカの学会へ行くので私、彼に着いて行こうかな」と興奮が冷めやらないなかで言う。
徹は少し寂しい気持ちになったが、美里の親友の奈緒にアタックしようと決意を新たにした。
彼女はワンレグの髪をアップにしており、23歳の年齢より大人びて見えた。
人妻のような色っぽさも漂わせていた。
ポニーテールの美里を授業中に後ろの席から見ながら、ノートにボールペンで描いたこともあった。
「相変わらず、競馬やっているの?」コーヒーカップを手にしながら聞く。
徹は黙って頷いた。
「損ばかりしているのね」上眼となって尋ねる。
「運がないんだ」徹は自嘲気味に言葉を返した。
そして緑のソーダー水を飲む。
徹はコーヒーが苦手であった。
メランコリーな気分になるコーヒーは彼にとっては禁忌である。
ハチ公の像がある広場の通りの向かい側の喫茶店で待ち合わせをするのが2人は常であった。
「まだ、彼女できないの?」美里は何時もの嫌味を言うのだ。
「彼女?目の前にいるじゃないか」徹はマジである。
「私はダメ、彼氏がいるでしょ」突き放される。
先日は「これから、成田へ行こうか?」と美里唐突に言う。
「成田、危ないよ」徹は腰が引けた。
「成田闘争を一度、見て置きたいの」美里はマジである。
「それじゃ、鎌倉にしよう」
「俺は、競馬に行きたいんだ」
「競馬か?一度行ってみようか」美里が乗り気になったのが意外であった。
財布に5000円しかない徹は、渋谷の場外馬券場へ行こうと思っていたのだ。
だが、美里は「府中競馬場へ行ってみたい」と言うのだ。
「お金あまり持っていないんでしょ。交通費なら私が出すわ」美里の鋭い感覚に、徹は冷笑を禁じ得なかった。
「これでは恋いにならない」徹は心の内でつぶやく。
渋谷駅から井の頭線で明大前まで行き、京王線に乗り換えた。
二人が通っていた高校が下高井戸にあった。
昼の時間には、三井牧場で寝転んで2人で空を仰いだことがある。
「徹君は詩人になるの?」
「できればね」
「お金持ちにはなれないね」徹は、美里は高校生のくせに現実的な娘だと呆れた。
下高井戸を電車が通過した時に美里は「沢村さんは、どうしているかな?」と窓に目を転じた。
美里が恋いした先輩である。
府中駅から競馬場まで2人は歩いた。
府中図書館に勤めている同期生の本間悟のことが思い出された。
「そうなの、本間君は図書館にいるんだ。本好きだったから良かったわね」美里は彫刻が好きで、彫刻家の息子の本間に敬意を抱いていた。
「これが競馬場なのね!」美里は、想像以上に広々とした馬場にまず感嘆した。
そしてメインスタンドより内馬場の方へ行きたがった。
「女の子、以外に多いのね。競馬場ってオッサンばかりと思っていた」美里は認識を新たにしたようであった。
美里は冬枯れに近い内馬場の広場の上を走った。
「まだ、美里速く走れるじゃん」徹は美里のきれいな走りに今更、驚いた。
「陸上の練習のこと、思い出すな」美里は2、3回ランを繰り返した。
高校総体で400㍍に美里は出場し、3位であった。
徹はビールを飲む。
美里はコーラーを飲んだ。
7レース、8レースは馬券を買わずにレースを見た。
9レースは岡部騎手が乗った馬が人気となり、本命サイドで決まった。
徹はそれを2000円買っていた。
配当は480円であった。
次の10レースでは5000円失ってしまった。
それでもメインレースの資金は残っていた。
徹はリーディングジョッキーに期待して馬券を買った。
一方、美里はスポーツ新聞の「夢馬券」のコラムに注目した。
夢はあくまで夢で大穴の予想である。
「私のこの馬に賭けてみようかな?」8枠の一番の人気薄馬である。
同じ8枠の別の馬も人気薄であった。
美里は8枠のゾロ目の馬券を買ってから、徹に「他にどの馬を買うべきなの?」と意見を求めた。
「2枠と3枠の馬かな」5連勝中の馬と前回のレースで圧勝した馬を勧めた。
美里は一番人気薄の単勝馬券も買っていた。
さらに複勝馬券があることを知って、その人気薄の馬にも賭けていた。
結果は、夢馬券が実現する大波乱となったのだ。
そして、美里は実に57万円を払い戻したのだ。
「徹君、こんなことがあるのね。夢のようね。信じられない!」美里は興奮し頬を紅潮させ、肩で息をしていた。
「徹君に半分あげる」と言う。
「いいよ。気持ちだけで」と断ったが、美里は7万円を徹のスーツのポケットに入れた。
美里は医師の彼氏を思い出して、「彼が来月、アメリカの学会へ行くので私、彼に着いて行こうかな」と興奮が冷めやらないなかで言う。
徹は少し寂しい気持ちになったが、美里の親友の奈緒にアタックしようと決意を新たにした。