カラスが朝からけたたましく鳴いていた。
仲間を呼び寄せているのか、縄張りを主張しているのか、執拗に鳴き続ける。
やがてその声に応えるように、3羽のカラスの声が重なる。
「カラスがあんな鳴き方をするのは嫌ね。きっと人が死んだのよ」
トーストにジャムとバターを塗りながら雪江は夫に言った。
夫の悟はちょっと目をあげたが、そのことに取り合う様子を示さない。
新聞から目を離さない悟は2枚目のパンにまだ手をつけない。
悟は新聞から目を離さぬままパンをつかんだ。
ジャブとバターの中に悟は指を突っ込んだが、平気でそのままパンを口へもっていった。
毎度のことで雪江は注意をせずそれを見守っていた。
「お母さんどうしているかしら。死んで発見されるなんてことにならければいいわ」
「嫌なこと言うんだな」心が優しい夫は怒っても、言葉に柔らかさがあった。
雪江は夫からうるさく言われることもないので安心しきっていられた。
どんなことを言っても、夫は怒ることはなかった。
「新聞に時々出ているでしょ。独りぼっちの老人が、死後1週間も経って発見されたって、お母さんのこと心配だわ」
夫は複雑な表情となった。
5年も一緒に来らした夫の母親であったが、雪江は実母と同様の情愛を抱いていた。
それなのに義母と別れなければならなくなった。
突然、義姉や義兄からを促されたのだった。
雪江は骨肉の争いを観念的には知っていたが、現実のものとなったのだ。
義姉、義兄たちは欲に囚われ切っていた。
悟は長男であったので、雪江と結婚してからも実家で暮らしていた。
結婚して7年目であったが、義母の絹は軽い脳梗塞で入院した。
そのことが契機となって、遺産の問題が浮上したのだ。
夫の実家の財産といっても、戦後間もなく建った家と70坪ほどの土地であった。
夫の父親は10年前に心筋梗塞で亡くなっていた。
「私たちがお母さんの面倒を見るから、あなたたち家を出て行ってよ」
まず長女の剛子が言い出した。
悟夫婦が家を出てから母の家は急に老朽化した。
母は父の仏壇がある部屋を寝室にし、他の部屋は閉め切っていた。
人が住まない家が自然と荒れてくるように、母の家の使われない部屋は痛みだした。
床が凹んだのだ。
「白蟻に食われたようだ」と一度、母の様子を見に実家へ行った悟が言う。
義理の姉たちは母を説得し、家を売りに出すことを決め、売却を不動産さんへ頼んだのである。
夫とは17歳も年上の長女剛子はほとんど弟の悟に相談を持ちかけず、母親を誘導していた。
また、義姉の中には夫に振り回せれている様子も感じられた。
仲間を呼び寄せているのか、縄張りを主張しているのか、執拗に鳴き続ける。
やがてその声に応えるように、3羽のカラスの声が重なる。
「カラスがあんな鳴き方をするのは嫌ね。きっと人が死んだのよ」
トーストにジャムとバターを塗りながら雪江は夫に言った。
夫の悟はちょっと目をあげたが、そのことに取り合う様子を示さない。
新聞から目を離さない悟は2枚目のパンにまだ手をつけない。
悟は新聞から目を離さぬままパンをつかんだ。
ジャブとバターの中に悟は指を突っ込んだが、平気でそのままパンを口へもっていった。
毎度のことで雪江は注意をせずそれを見守っていた。
「お母さんどうしているかしら。死んで発見されるなんてことにならければいいわ」
「嫌なこと言うんだな」心が優しい夫は怒っても、言葉に柔らかさがあった。
雪江は夫からうるさく言われることもないので安心しきっていられた。
どんなことを言っても、夫は怒ることはなかった。
「新聞に時々出ているでしょ。独りぼっちの老人が、死後1週間も経って発見されたって、お母さんのこと心配だわ」
夫は複雑な表情となった。
5年も一緒に来らした夫の母親であったが、雪江は実母と同様の情愛を抱いていた。
それなのに義母と別れなければならなくなった。
突然、義姉や義兄からを促されたのだった。
雪江は骨肉の争いを観念的には知っていたが、現実のものとなったのだ。
義姉、義兄たちは欲に囚われ切っていた。
悟は長男であったので、雪江と結婚してからも実家で暮らしていた。
結婚して7年目であったが、義母の絹は軽い脳梗塞で入院した。
そのことが契機となって、遺産の問題が浮上したのだ。
夫の実家の財産といっても、戦後間もなく建った家と70坪ほどの土地であった。
夫の父親は10年前に心筋梗塞で亡くなっていた。
「私たちがお母さんの面倒を見るから、あなたたち家を出て行ってよ」
まず長女の剛子が言い出した。
悟夫婦が家を出てから母の家は急に老朽化した。
母は父の仏壇がある部屋を寝室にし、他の部屋は閉め切っていた。
人が住まない家が自然と荒れてくるように、母の家の使われない部屋は痛みだした。
床が凹んだのだ。
「白蟻に食われたようだ」と一度、母の様子を見に実家へ行った悟が言う。
義理の姉たちは母を説得し、家を売りに出すことを決め、売却を不動産さんへ頼んだのである。
夫とは17歳も年上の長女剛子はほとんど弟の悟に相談を持ちかけず、母親を誘導していた。
また、義姉の中には夫に振り回せれている様子も感じられた。