ローンウルフ(英語: lone wolf、日本語: 一匹オオカミ)とは、テロと関わりのなかった少数の個人がインターネット情報などを通じて自発的に過激化した状態を表す用語である。
概要
テロの大組織や、大組織によるテロ活動などと対比する表現、分類法。
もともと特にアメリカのマスコミがこの分類法を多用する傾向があるが、それの影響を受けて日本のマスコミや日本の当局もこの分類法(比喩法)を使うようになった。
歴史
名誉毀損防止同盟の資料によると、ローンウルフというテロリズムの形態そのものは、1990年代に白人至上主義者のアレックス・カーティスとトム・メッツガー(英語版)によって提唱されたものとされており、メッツガーは秘密結社(地下組織)としての活動と対称になる存在として、「匿名の単独または少人数グループが、日常的に政府または特定の標的に対して攻撃する」という活動形態を提唱した[2]。
一方、犯罪における犯罪人の行動類型としては、1970年代から1990年代にかけて世捨て人のような生活を送りながら数々の爆発物送付事件を単独で引き起こしたセオドア・カジンスキー(ユナボマー)の事例が知られており、連邦捜査局 (FBI) はカジンスキーの逮捕後に犯罪人類型に「ローンウルフ型」を新たに加えた。
カジンスキーのほか、ティモシー・マクベイおよび共犯者のテリー・ニコルズ(英語版)による犯行グループが引き起こしたオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件が、古典的なローンウルフ型の重大犯罪として言及されることが多い。
現代における解釈
一方で社会的に孤立したローンウルフによる事件と報道されても、実際は過激派のコミュニティの一員であり、自分が運動に参加していると認識していた犯人は少なくない。
2019年3月のクライストチャーチモスク銃乱射事件、同年4月の米カリフォルニア州パウエイ・ユダヤ教会堂銃乱射事件、同年8月の米テキサス州エルパソ・ウォルマート銃乱射事件の犯人は、それぞれ画像掲示板「8chan」に犯行声明を投稿していた。
この犯人たちはそれぞれ、実行したテロについて他人の指示はおそらく受けておらず、ローンウルフに見えるが、彼らはオンライン・コミュニティなどを通じて、運動に参加しているという連帯感を覚え、敵の集団を殺害すべきだという規範を強め、実行した。
特に過激派組織による軍事訓練への参加や同志との交流などによる国際的あるいはオンラインを通じた支援も指摘されている。
欧米におけるISのテロは、IS支配地域の工作員に企画され、インターネットや先進国に潜伏するリクルーターを通じて勧められ、指示された者が実行した「リモコン型テロ」が少なくないことが明らかになっている。
ニューヨーク・タイムズのルクミニ・カリマキ記者は2017年2月4日、ISとなんらかの関係があった2014年10月以後のテロを、各国当局者の見方をもとに、1)IS支配地域渡航者が実行したか、実行犯に直接働きかけた5件、2)リモコン型11件、3)関係不詳またはISから実行犯へ連絡のなかったローンウルフ型27件、に分類している。
実行犯に誰も指示しなかったテロであっても、基本的には事件時に実行犯が少数行動をしただけであって、精神的・物理的な過程において、他者との直接または間接的な関係が重要になっていると、ライデン大学のバート・スクールマン講師ら研究者7名が、2017年に指摘している。
故にその過程で情報が洩れて、テロを未然に摘発することが可能になるのだが、ローンウルフという言説は、この可能性を否定し、テロ対策を妨げるので、作られるべきではなかったとしている。
発生の防止法
多くの単独行動テロリストの場合、イデオロギー的に過激化してテロを計画準備するまでむしろ周囲との社会的な関係が大きな作用を果たしている。逆にみると、テロ対策のいくつかの鍵もここにある。
一つは、ホームグロウン・テロリストやリクルーター、筋金入りの過激派といった欧州の一団と、中東に本拠地を置く一団とのつながりを、出入国管理や情報を管理することによって断ち切ることである。
もう一つは、アルカイダやイスラム国の活動そのものを封じ込めることにほかならない。