藤 和彦 2022/06/06 05:00
2022年上半期で、現代ビジネスで反響の大きかった社会・事件系のベスト記事をご紹介していきます。1月8日掲載〈日本で「マグニチュード7の巨大地震」が起きる確率は「今年中に80%」…“新検証”で驚きの結果が!〉の記事をご覧ください。
※情報はすべて2021年1月8日時点のものです。
日本で「マグニチュード7の巨大地震」の可能性!
これから論じることは仮説だと断っておく必要があるだろう。
今年中に日本でマグニチュード7クラスの巨大地震が起こる可能性が高まっていると筆者は危機感を持っている。
このほど、筆者は埼玉大学名誉教授である角田史雄氏との共著『徹底図解 メガ地震がやってくる!』を上梓した。この書籍に書かれているメガ地震の発生のメカニズムは、多くの日本人の研究者や国民が知っているものとは大きく異なっている。
まずはこのことを前提とし、我々が検証を続けている仮説から、これから起こり得る巨大地震の可能性を論じていきたい。
なぜ「地震予知」は確立されないのか・・・Photo/gettyimages© 現代ビジネス なぜ「地震予知」は確立されないのか・・・Photo/gettyimages
2022年が明けても間もない1月4日午前6時過ぎ、東京・小笠原諸島の母島で震度5強の地震(マグニチュード6.1)があった。
気象庁は同日午前に会見を開き、「今回の地震は太平洋プレートの内部で発生したと見られる」との見解を明らかにした。
気象庁が言及したように、地震が発生すると日本では「プレート説」によってそのメカニズムが国民に広く解説される。
「プレート説」とは異なる地震予知
プレート説は1960年代の米国で提唱された。当時、限定された海域を対象にしたプレート説に飛びついたのは、日本の研究者たちだった。
彼らは具体的な検証を行う前にその適用範囲を地球全体にまで広げてしまったとされている。小松左京のSF小説『日本沈没』の影響も大きく、最近ではNHKの人気番組『ブラタモリ』でもプレート説に基づいた解説がなされている。
今や日本人にとってプレート説は常識となっている。
しかし、プレート説も仮説にすぎないということはあまり重要視されていない。
プレートテクトニクスは、いまだ「仮説」に過ぎない Photo/gettyimages© 現代ビジネス プレートテクトニクスは、いまだ「仮説」に過ぎない Photo/gettyimages
プレート説から地震のメカニズムを解説すれば、概ね次のようなものとなる。
地球の表層部に広がる十数枚の冷たい固い岩板(プレート)がぶつかることで地震が発生する。
プレートは海底に隆起した山脈(海嶺)から生まれ、地球深奥のマントルの対流により一定方向に移動する。比重の重い海洋プレートが比重の軽い大陸プレートの下に沈み込み、そこで溜まったエネルギーが解放されると地震が発生する。
日本で地震が多発するのは、2つの陸地プレート(北アメリカとユーラシア)と2つの海洋プレート(太平洋とフィリピン海)の上に乗っているからだとされている。
ところが、このプレート説については「不都合な真実」が明らかになっている。技術進歩のおかけで地球の内部の状況が可視化されたからだ。
地球内部が「見える」ように…?
「マントルトモグラフィー」という技術を使えば、地震波が伝わる速度の違いから地球内部の温度分布を画像解析できるようになったのだ。
これを用いて地球内部の様子を見ると、地球の表層部に広がっているはずのプレートが見当たらないことがわかる。プレートとおぼしき「冷たく固い岩石層」はところどころに分布しているだけ。海嶺の下にあるとされてきたマントルの対流も確認できないのである。
地球の地下構造は、まだ謎だらけ Photo/gettyimages© 現代ビジネス 地球の地下構造は、まだ謎だらけ Photo/gettyimages
プレートが点在するだけで、プレートを移動させる原動力(マントルの対流)もないのだから、そもそもプレート同士がぶつかることもありえない。
日本で語られることはほとんどないのだが、「プレート説」では地震発生のメカニズムを説明できないのだ。
1995年の阪神淡路大震災以降の地震に照らしても、プレート境界面が震源となった例は存在しないし、プレート説を用いて予知できた大地震もない。
それではなぜ地震は起こるのか。マントルトモグラフィーの画像から新たな「気づき」を得た人物が冒頭で紹介した角田史雄氏である。
もう一つの仮説の存在
地球内部は一様に高温ではなく、冷たい箇所もあるから「地球内部には高温の熱の流れ(高熱流)の道があり、熱の流れ先の岩石が膨張して破壊されることで地震が起きる」と角田氏は考えた。
米国地質調査所(USGS)が2012年から地下660kmまでの地震のデータを公表するようになったことで角田氏はさらなる知見を得た。
USGSが公表する以前は地下400kmまでの地震しか把握できなかったが、それよりも深いところで発生する地震の動向がわかったことで、角田氏は深発地震(地下410~660kmで起こる地震)と地表で起きる大地震との相関性があることに気づくことができたのだ。
地震のメカニズムには新たな「仮説」も登場している Photo/gettyimages© 現代ビジネス 地震のメカニズムには新たな「仮説」も登場している Photo/gettyimages
角田氏が提唱する地震発生のメカニズムの詳細は『徹底図解 メガ地震がやってくる!』を参照してほしいが、そのポイントは以下の3点だ。
1.地球の外核(地下2900km)から高熱流(2200~5000度)が下部マントル(地下2900~660km)の中を湧昇し、上部マントルの遷移層(地下660~410km)に到達すると、高熱によって遷移層の岩石が割れて深発地震が発生する。
2.その後アセノスフェア(地下300~1000km)が高温(1000度)となり、地殻(地表から地下40kmまで)中のマグマが地表に達する。
3.地表には、(1)南太平洋のタヒチ~フィジー諸島と(2)東アフリカの2か所に高熱流の吹き出し口がある。南太平洋の吹き出し口からアジアに向かうルートがあり、このルートを通って日本の近くに高熱流が到達すると火山が噴火し、地震が発生する。
以上が、角田氏が提唱する地震発生のメカニズムだが、前掲書の企画編集者である前田和男氏が過去30年間のデータを調べたところ、地震予知につながる可能性が見えてきた。
軽石の浮遊で話題となった新島「福徳岡ノ場」の火山活動(中央)。小笠原諸島では異変が起きている Photo/gettyimages© 現代ビジネス 軽石の浮遊で話題となった新島「福徳岡ノ場」の火山活動(中央)。小笠原諸島では異変が起きている Photo/gettyimages
1年以内に大地震の起こる確率は80%
それによれば、「地下410~660kmのでマグニチュード5.5以上の深発地震が1カ月に5回以上連続して発生すると、1年以内に環太平洋地域でマグ二チュード7以上の大地震が起きる」確率はなんと80%を超えたのだ。
さらに日本及び日本近隣(オホーツク海や千島列島などの極東ロシア)でマグニチュード6超の深発地震が発生すると、日本で大地震が発生する可能性が格段に高くなることもわかっている。
直近の状況を見てみよう。
昨年、2021年4月と10月の2度にわたって、マグニチュード5.5以上の深層地震が5回以上連続して発生している。
同8月に小笠原諸島(福徳岡ノ場と西之島)で大規模な火山活動が起きた。
同9月13日には、東海沖の地下370kmでマグニチュード5.8の地震が発生、また同29日に石川県日本海沖の地下364kmでマグニチュード6.1の深発地震が発生している。
過去30年のデータ分析が示唆しているのは、今年中に日本でマグニチュード7以上の大地震が起きる可能性が高いということだ。
地震はなぜ起こるのか・・・。写真はアイスランドのシンクヴェトリル国立公園にある断層 Photo/gettyimages© 現代ビジネス 地震はなぜ起こるのか・・・。写真はアイスランドのシンクヴェトリル国立公園にある断層 Photo/gettyimages
首都圏と近畿圏で地震が多発している場所などを前掲書に記載したが、今年起きる可能性が高い大地震の震源地については分析を進めている最中だ(角田氏からの見解がまとまった段階で改めてお知らせしたい)。
異なる仮説が生み出す地震予知のイノベーション
もちろんここまで論じてきた大地震発生の条件は、研究・分析が十分とは言えない「仮説の卵」に過ぎない。
一方でこの仮説の強みは、地震学の知見がなくても地震予知の確立作業に参加できる点だ。なぜならUSGSへのデータベースには、誰でもアクセスできるからである。
地震予知の早期実現が待ち望まれている Photo/gettyimages© 現代ビジネス 地震予知の早期実現が待ち望まれている Photo/gettyimages
「仮説の卵」に興味を持っていただいた方々が、深発地震と地表で起きる大地震の関係を様々な角度から分析していただければ、精度の高い地震予知の方法が必ず見つかるものと筆者は確信している。
イノベーションとは、常識にとらわれない姿勢から生まれるものだからだ。
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