北側徹は、営業の仕事で北海道はじめ、仙台、新潟、名古屋、大阪、岡山、広島、高知、福岡などへ行っていた。
この間に、忘れていた中国人のメイユイ(美雨)から社内に電話がかかってきたことを同僚の木島紀子から伝えられた。
「とても、可愛い声の人なのね」と紀子が言う。
彼女とは3年前の同期入社であった。
近視の彼女は黒縁の回るい眼鏡をかけていた。
常に黒にセーターとロングのスカート姿であった。
性格がさっぱりしている。
上司である編集長の浅野里美は入社した早い時期に「北側さん、木島さんには手を出さないでね。私の大事な人だから」と釘を刺された。
以前勤務した社の先輩の大森明音(あかね)が「北側君は女に直ぐに手を出すから気をつけて」と余計なアドバイスをしていたのだ。
午後5時の退社時間に、メイユイから電話があった。
「例の彼女よ」電話を受けた紀子はニヤリとする。
「ハイ、北側です」
「センセイ、メイユウです。今日、会えますか?」
「どこで?」
「わたし、新宿歌舞伎町の店にいます。会いに来てください。韓国料理のお店のハヌリです」
徹が以前勤務していた会社は新宿にあり、彼は韓国料理のハヌリを知っていた。
水道橋から新宿へ向かう。
個室の店で、働く女性は皆、チマチョゴリ姿だった。
「メイユウさんチマチョゴリ似合っているよ」徹を迎えて微笑むメイユウに声をかける。
「わたし、これよりセンセイに見せたいですチャイナドレス」
可愛い声が尖った。
「メイユウさん、その声で歌ってみてください」酒と韓国料理を運んできた彼女と歓談してながら願ってみた。
「センセイ、何うたいますか?」
「そだな、夜来香 (イエライシィアン」
彼女は小声で歌った。
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