

今日の「お気に入り」は、昨日の続き。
「 だから、この人にはまだまだ発現されていない才能があると思ったら、この人
にはもっと傑作を創り出してほしいと思ったら、骨がきしみ、血が出るような批
判をして、けってんを補正させるよりは、どうやったら『傑作を創る気』になっ
てくれるか、僕はそれを考えます。
そして、経験的にわかったのは、人にほんとうに才能を発揮してほしいと思っ
たら、その人の『これまでの業績』についての正確な評価を下すことよりも、そ
の人がもしかすると『これから創り出すかもしれない傑作』に対して期待を抱く
ほうがいいということです。
だから、僕が世間的にはまったく無名な人に対して敬意を表するのは、『この
人がこれから創り出すかもしれないもの』に対する期待を感じるからです。
そういうのはわかるんです。才能のあるなしは、それがまだかたちになってい
なくても、わかる。
そして、才能はしばしば『あなたには才能がある』という熱い期待のまなざし
に触れたことがきっかけになって開花する。
才能はそこに『ある』というより、そこで『生まれる』んです。
だから、僕はこの世界を、豊かな才能と、彼らの創り出した作品によって満た
されたものにしたいと願うので、批判するよりはほめ、査定するよりは期待す
るようにしています。
今の話は創作についてですけど、それとまったく同じことは教育についても言
えるんです。」
( 内田 樹著 「そのうちなんとかなるだろう」㈱マガジンハウス刊 所収 )

