「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

Long Good-bye 2020・01・08

2020-01-08 04:55:00 | Weblog




                                         


   今日の「お気に入り」は、昨日の続き。


     「 だから、この人にはまだまだ発現されていない才能があると思ったら、この人

      にはもっと傑作を創り出してほしいと思ったら、骨がきしみ、血が出るような批

      判をして、けってんを補正させるよりは、どうやったら『傑作を創る気』になっ

      てくれるか、僕はそれを考えます。

       そして、経験的にわかったのは、人にほんとうに才能を発揮してほしいと思っ

      たら、その人の『これまでの業績』についての正確な評価を下すことよりも、そ

      の人がもしかすると『これから創り出すかもしれない傑作』に対して期待を抱く

      ほうがいいということです。

       だから、僕が世間的にはまったく無名な人に対して敬意を表するのは、『この

      人がこれから創り出すかもしれないもの』に対する期待を感じるからです。

       そういうのはわかるんです。才能のあるなしは、それがまだかたちになってい

      なくても、わかる。

       そして、才能はしばしば『あなたには才能がある』という熱い期待のまなざし

      に触れたことがきっかけになって開花する。

       才能はそこに『ある』というより、そこで『生まれる』んです。

       だから、僕はこの世界を、豊かな才能と、彼らの創り出した作品によって満た

      されたものにしたいと願うので、批判するよりはほめ、査定するよりは期待す

      るようにしています。

       今の話は創作についてですけど、それとまったく同じことは教育についても言

      えるんです。


      ( 内田 樹著 「そのうちなんとかなるだろう」㈱マガジンハウス刊 所収 )








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