「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

Long Good-bye 2020・01・05

2020-01-05 05:15:00 | Weblog









    今日の「お気に入り」。


     「 決断とか選択とかいうことはできるだけしないほうがいいと思います。右の道に

      行くか、左の道に行くか選択に悩むというのは、すでにそれまでにたくさんの選

      択ミスを犯してきたことの帰結です。

       ふつうに自然な流れに従って道を歩いていたら、『 どちらに行こうか 』と悩む

      ということは起きません。

       日当たりがよいとか、景色がいいとか、風の通りがいいとか、休むに手ごろな

      木陰があるとか、そういう身体的な『 気分の良さ 』を基準に進む道を選ぶ人は、

      そもそも『 迷う 』ということがありません。

       そちらの道を選ぶと、『 日が差さなくて、景色が見えなくて、どんより気が濁

      っていて、腰をおろしたくなる場所もない 』というような道が分岐点に出てき

      ても、『 そんな道 』を選ぶはずがない。そんな道は選択肢としては意識化され

      ませんから。

       ですから、身体的な気分のよさをゆるぎない基準にして歩いてきた人は、実際

      にはいろいろな分岐点を経由してきたのだけれども、主観的には一本道を進ん

      できたような気がする。

       それが理想なのだと僕は思います。

       さあ、この先どちらの道を行ったらいいのかと悩むというのは、どちらの道も

      あまり『 ぜひ採りたい選択肢 』ではないからです。どちらかがはっきりと魅力

      的な選択肢だったら、迷うことはありません。迷うのは『 右に行けばアナコン

      ダがいます。左にゆくとアリゲーターがいます。どちらがいいですか? 』と

      いうような場合です。そういう選択肢しか示されないということは、それより

      だいぶ手前ですでに『 入ってはいけないほうの分かれ道 』に入ってしまったか

      らです。

       決断を下さなければいけない状況に立ち至ったというのは、いま悩むべき『 問

      題 』ではなくて、実はこれまでしてきたことの『 答え 』なのです。今はじめて

      遭遇した『 問題 』ではなく、これまでの失敗の積み重ねが出した『 答え 』なの

      です。

       ですから、『 正しい決断 』を下さねばならないとか『 究極の選択 』をしなけれ

      ばならないというのは、そういう状況に遭遇したというだけで、すでにかなり

      『 後手に回っている 』ということです。

        決断や選択はしないに越したことはない。

        ですから、『 決断したり、選択したりすることを一生しないで済むように生

      きる 』というのが武道家としての自戒になるわけです。」


       ( 内田 樹著 「そのうちなんとかなるだろう」 ㈱マガジンハウス刊 所収 )







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