「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

Long Good-bye 2020・01・07

2020-01-07 04:50:00 | Weblog


                                    



   今日の「お気に入り」。


     「 どんな人でもいろいろな面がある。いいところもあるし、嫌なところもある。

      面白いところもあるし、つまらないところもある。ユニークなところもあるし、

      凡庸なところもある。あって当然です。

       僕はその人の一番『いいところ』、一番『面白いところ』、一番『ユニーク

      なところ』だけを見るようにしています。

       相手も生身の人間ですからいろいろとアップダウンがあり、凹凸がある。

       クリエイターの場合だと、『これは傑作だけど、こちらはイマイチ』とい

      うような質のバラツキは必ずあります。

       でも『このへんはイマイチですね』なんてことを本人に面と向かって言っ

      てもしようがない。本人だってそれは重々承知しているわけですから。

       批判されたり、面罵されたりした人が、そう言われることでやる気を出し

      て、その次によいものを仕上げるということはふつうありません。

      ( 中略 )

      人に質の高いものを生み出してほしいと思ったら、いいところを探し出して、

     『これ、最高ですね』『ここが、僕は好きです』と伝えたほうがいいに決まっ

     てます。

      少なくとも僕はそうです。批判されたら落ち込む。ほめられるとやる気にな

     る。当たり前ですよ。

      肺腑をえぐるような批判をされてボロボロになるのは、もちろんその批判が

     『当たっている』からです。

      でも、批判が当たっているからと言って、それでその次の仕事に向かって

     『さあ、やるぞ』と意気軒高になるということはありません。

      同じような失敗をしないように警戒心は高まるでしょう。欠点は補正され

     るでしょう。でも、そのせいで魅力的な部分がより開花するということは

     ありません。

      絶対にありません。

      批判を受けたせいで魅力が増すということはないんです。

      というのは、才能ある人の魅力というのは、ある種の『無防備さ』と不可

     分だからです。

      一度深く傷つけられると、この『無防備さ』はもう回復しません。その人

     の作品の中にあった『素直さ』『無垢』『開放性』『明るさ』は一度失わ

     れると二度と戻らない。


      ( 内田 樹著 「そのうちなんとかなるだろう」㈱マガジンハウス刊 所収 )








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