

今日の「お気に入り」。
「 どんな人でもいろいろな面がある。いいところもあるし、嫌なところもある。
面白いところもあるし、つまらないところもある。ユニークなところもあるし、
凡庸なところもある。あって当然です。
僕はその人の一番『いいところ』、一番『面白いところ』、一番『ユニーク
なところ』だけを見るようにしています。
相手も生身の人間ですからいろいろとアップダウンがあり、凹凸がある。
クリエイターの場合だと、『これは傑作だけど、こちらはイマイチ』とい
うような質のバラツキは必ずあります。
でも『このへんはイマイチですね』なんてことを本人に面と向かって言っ
てもしようがない。本人だってそれは重々承知しているわけですから。
批判されたり、面罵されたりした人が、そう言われることでやる気を出し
て、その次によいものを仕上げるということはふつうありません。
( 中略 )
人に質の高いものを生み出してほしいと思ったら、いいところを探し出して、
『これ、最高ですね』『ここが、僕は好きです』と伝えたほうがいいに決まっ
てます。
少なくとも僕はそうです。批判されたら落ち込む。ほめられるとやる気にな
る。当たり前ですよ。
肺腑をえぐるような批判をされてボロボロになるのは、もちろんその批判が
『当たっている』からです。
でも、批判が当たっているからと言って、それでその次の仕事に向かって
『さあ、やるぞ』と意気軒高になるということはありません。
同じような失敗をしないように警戒心は高まるでしょう。欠点は補正され
るでしょう。でも、そのせいで魅力的な部分がより開花するということは
ありません。
絶対にありません。
批判を受けたせいで魅力が増すということはないんです。
というのは、才能ある人の魅力というのは、ある種の『無防備さ』と不可
分だからです。
一度深く傷つけられると、この『無防備さ』はもう回復しません。その人
の作品の中にあった『素直さ』『無垢』『開放性』『明るさ』は一度失わ
れると二度と戻らない。」
( 内田 樹著 「そのうちなんとかなるだろう」㈱マガジンハウス刊 所収 )

