今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「権利と義務の両方をおぼえさせたければ、権利を一回教えたら、義務を三回教えなければ、もともとおぼえたくないのだから、おぼえない。両方平等に教えたからいいと思うなら、人情の機微を知らないと評されても仕方がない。」
(山本夏彦著「かいつまんで言う」中公文庫 所収)
「権利と義務の両方をおぼえさせたければ、権利を一回教えたら、義務を三回教えなければ、もともとおぼえたくないのだから、おぼえない。両方平等に教えたからいいと思うなら、人情の機微を知らないと評されても仕方がない。」
(山本夏彦著「かいつまんで言う」中公文庫 所収)
今日の「お気に入り」は、茨木のり子さん(1926-2006)の「鶴」と題した詩を一篇。
鶴が
ヒマラヤを越える
たった数日間だけの上昇気流を捉え
巻きあがり巻きあがりして
九千メートルに近い峨峨(がが)たるヒマラヤ山系を
越える
カウカウと鳴きかわしながら
どうやってリーダーを決めるのだろう
どうやって見事な隊列を組むのだろう
涼しい北で夏の繁殖を終え
育った雛もろとも
越冬地のインドへ命がけの旅
映像が捉えるまで
誰にも信じることができなかった
白皚皚(はくがいがい)のヒマラヤ山系
突き抜けるような蒼い空
遠目にもけんめいな羽ばたきが見える
なにかへの合図でもあるような
純白のハンカチ打ち振るような
清冽な羽ばたき
羽ばたいて
羽ばたいて
わたしのなかにわずかに残る
澄んだものが
はげしく反応して さざなみ立つ
今も
目をつむれば
まなかいを飛ぶ
アネハヅルの無垢ないのちの
無数のきらめき
(茨木のり子著「倚りかからず」ちくま文庫 所収)
鶴が
ヒマラヤを越える
たった数日間だけの上昇気流を捉え
巻きあがり巻きあがりして
九千メートルに近い峨峨(がが)たるヒマラヤ山系を
越える
カウカウと鳴きかわしながら
どうやってリーダーを決めるのだろう
どうやって見事な隊列を組むのだろう
涼しい北で夏の繁殖を終え
育った雛もろとも
越冬地のインドへ命がけの旅
映像が捉えるまで
誰にも信じることができなかった
白皚皚(はくがいがい)のヒマラヤ山系
突き抜けるような蒼い空
遠目にもけんめいな羽ばたきが見える
なにかへの合図でもあるような
純白のハンカチ打ち振るような
清冽な羽ばたき
羽ばたいて
羽ばたいて
わたしのなかにわずかに残る
澄んだものが
はげしく反応して さざなみ立つ
今も
目をつむれば
まなかいを飛ぶ
アネハヅルの無垢ないのちの
無数のきらめき
(茨木のり子著「倚りかからず」ちくま文庫 所収)
今日の「お気に入り」は、古今和歌集から。
秋立つ日よめる 藤原敏行朝臣
秋きぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞおどろかれぬる
世の中のはかなきことを思ひけるをりに、菊の花をみてよみける
つ ら ゆ き
秋の菊にほふかぎりはかざしてん 花よりさきと知らぬわが身を
秋立つ日よめる 藤原敏行朝臣
秋きぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞおどろかれぬる
世の中のはかなきことを思ひけるをりに、菊の花をみてよみける
つ ら ゆ き
秋の菊にほふかぎりはかざしてん 花よりさきと知らぬわが身を