今日の「お気に入り」は、茨木のり子さん(1926-2006)の「鶴」と題した詩を一篇。
鶴が
ヒマラヤを越える
たった数日間だけの上昇気流を捉え
巻きあがり巻きあがりして
九千メートルに近い峨峨(がが)たるヒマラヤ山系を
越える
カウカウと鳴きかわしながら
どうやってリーダーを決めるのだろう
どうやって見事な隊列を組むのだろう
涼しい北で夏の繁殖を終え
育った雛もろとも
越冬地のインドへ命がけの旅
映像が捉えるまで
誰にも信じることができなかった
白皚皚(はくがいがい)のヒマラヤ山系
突き抜けるような蒼い空
遠目にもけんめいな羽ばたきが見える
なにかへの合図でもあるような
純白のハンカチ打ち振るような
清冽な羽ばたき
羽ばたいて
羽ばたいて
わたしのなかにわずかに残る
澄んだものが
はげしく反応して さざなみ立つ
今も
目をつむれば
まなかいを飛ぶ
アネハヅルの無垢ないのちの
無数のきらめき
(茨木のり子著「倚りかからず」ちくま文庫 所収)
鶴が
ヒマラヤを越える
たった数日間だけの上昇気流を捉え
巻きあがり巻きあがりして
九千メートルに近い峨峨(がが)たるヒマラヤ山系を
越える
カウカウと鳴きかわしながら
どうやってリーダーを決めるのだろう
どうやって見事な隊列を組むのだろう
涼しい北で夏の繁殖を終え
育った雛もろとも
越冬地のインドへ命がけの旅
映像が捉えるまで
誰にも信じることができなかった
白皚皚(はくがいがい)のヒマラヤ山系
突き抜けるような蒼い空
遠目にもけんめいな羽ばたきが見える
なにかへの合図でもあるような
純白のハンカチ打ち振るような
清冽な羽ばたき
羽ばたいて
羽ばたいて
わたしのなかにわずかに残る
澄んだものが
はげしく反応して さざなみ立つ
今も
目をつむれば
まなかいを飛ぶ
アネハヅルの無垢ないのちの
無数のきらめき
(茨木のり子著「倚りかからず」ちくま文庫 所収)