「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

ロバは旅に出たところで、馬になって帰ってくるわけではない 2007・10・14

2007-10-14 08:05:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

  「ホラチウスいわく『愁いは騎士とともに馬に乗って行く』と弱年のころ私は旅にさそわれるとこう言って断った。

  むろんいまはこんなことは言わない。ロバは旅に出たところで、馬になって帰ってくるわけではない、ロバとはおれの

  ことだよ、と言って断るとはいつぞや書いた。

   むろん私はホラチウスのテキストを読んでない。キケロもセネカも読んでない。ただ二十代のむかしモンテーニュの

  『エセー』を読んで、これらローマの先哲の名をおぼえただけである。なじみといえば、浅いなじみである。

   野心どん欲不安恐怖及び淫欲は、処をかえたとて我らを離れはしない。『暗愁は逃げる騎士を追ってその馬の尻にうち

  乗る』(ホラチウス)。

   モンテーニュは右のように言っている。若い私は少し字句を違えておぼえたのである。

   真理は万人の共有物で、それは先に言った者のものでもなければ、あとで言った者のものでもない。彼も我も同様に解し

  同様に見る以上は、それはプラトンのものでもなければ私のものでもない。」

  
        (山本夏彦著「つかぬことを言う」中公文庫 所収)
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