ずっと不足し続けているバター。
スーパーに行って棚を覗いても、「ひとりひとつ限り!」とか、「不足のため扱っておりません」という貼り紙を目にします。
そしてそのとなりで、牛乳は大安売りされ、外国から輸入されたチーズが、「お酒のおつまみに!」と置かれています。
どれも同じ牛の乳から作るのに、なぜバターだけが不足し、牛乳やチーズはふつうに販売され、外国からも輸入されるのか?
なぜ牛の乳をバターにしないのか?足りないのなら、なぜ外国から仕入れないのか?
いまや日本のスーパーでは、外国の製品があふれかえっているというのに…。
そんなバター不足の謎に迫ります。
農林水産省の言い分
日本の食料の安定確保を行っているのは農林水産省ですが、農林水産省の言い分によると、
「バターを作るための酪農家が高齢化し、酪農家が少なくなり、牛の数も減ったり、牛が病気になったりで、牛の生乳が減ってしまったのが原因だ」としています。
しかし生乳自体の生産量は、バターがなくなるほど減っているわけではありません。確かに高齢化や酪農家が少なくなることで、1年で2%とか、その程度のスピードでゆるやかに減ってきていますが、急に日本のバターがすべてなくなるような減りようではないのです。
もしもそんな減り方だったら、一番最初に牛乳がなくなるはずです。バターよりもずっと毎日消費されるものですよね。
では、本当の理由はどこにあるのでしょうか?
農林水産省のコントロールによる失敗
日本の酪農業界は、農林水産省によって完全にコントロールされています。
今回のバター不足は、農林水産省が起こした失敗であり、バターが農林水産省にとって最もお金を生むものだからこそ、ゆがんだ仕組みを簡単には解消できない理由があるのです。
そんな要因について解説していきます。
バターは北海道でしか作れない
バターが不足していても、牛乳は不足していない。
では、全国どこの乳業メーカーでも、酪農家から牛乳を買い取ってバターを作ればいいと思われるかもしれませんが、農林水産省はさまざまな補助と特例を作り、まともな競争や商売ができないようにされています。
普通にバターを作ると何の補助もありませんが、北海道で乳製品を加工した場合、「加工乳補助金」として1リットルあたり12・8円の補助金が出ます。
これは非常に大きな補助であり、この補助金を受けないで全国の乳業メーカーがバターを作っても、とても北海道のバターには価格競争で負けてしまうでしょう。最初からバターは北海道でしか作れないのです。
この仕組みは北海道の酪農家を守るためと銘打っていますが、酪農家は全国におり、北海道だけを守ればいいというわけではありません。このような補助金の結果、北海道に工場を持つ乳業メーカーだけが莫大な独占利益を得ることになります。
こういう独占化は、商業においての可能性をつぶしていきます。優遇された企業だけが力を持つのではなく、誰もが自由に参加できるから社会は豊かになるのです。
作りたくても作れないバター
では、北海道の乳業メーカーがバターを増やしてくれればバター不足は解消するかといえば、実際にはそうはいきません。
牛を育てている酪農家も、バターを作る乳業メーカーも、思うまま自由にバターを作れるわけではありません。
そもそも酪農家は、作った牛乳を販売できるところが限られています。自分で好きなようにメーカーに牛乳を販売(インサイダー)してしまうと、一切補助金は受けられないのです。
法律で定められた特定の『農協』におさめた場合のみ補助金が得られるのですが、この時の取引価格もこのように決まっています。
●生乳の取引価格
牛乳用:110円/キロ
生クリーム用:82円/キロ
バター用:78円/キロ
チーズ用:67円/キロ
同じように生乳を作っても、高く買い取ってもらえるのは牛乳にした時だけです。バターにすると半額近く減ってしまいますから、売るなら牛乳用として売りたいのは人間の心理です。
農協から乳業メーカーが生乳を買い取っても、そもそも、バター用の生乳は『ほとんどない』というわけです。
農林水産省の読み違い
取引価格表で、牛乳110円、バター78円、チーズ67円と、チーズは一番価格が安いのに、なぜ不足しないのかと思われる方がいらっしゃると思います。
これは農林水産省の読み違いで、農林水産省は「バターが余る、チーズが不足する」と考え、チーズには特別な補助金を設けているのです。チーズ製造に関わる業者に対する補助や、チーズ向け生乳に対して1リットル15.41円の補助金を出し、チーズを作ることを推し進めています。
当然ながら業者にとっては、補助が下りる事業を選ぶのは当たり前のことです。生産するうまみのなさからバターが不足しても、チーズは前年よりも多く生産されているという、わけのわからない状況が起きています。
なぜ外国から輸入しないのか
さまざまな仕組みによる弊害はあるにせよ、バターが不足している今、なぜバターを外国から取り寄せないのか?
バター不足で困っていても、ケーキ屋さんなどはいつも通りバターを使い続けなくてはなりません。今バターを仕入れて販売すれば、爆発的に利益が出せるのは誰の目にも明らかです。
それなのに、なぜどの業者もバターを一切外国から仕入れないのか?
ニュージーランドなどのバター大国によるおいしいバターが、なぜか一切お店に置かれることはありません。
ここにこそ、バター不足の本当の理由による闇が隠されています。
牛乳に戻せてしまうバター
ここでバターの特性を知っておかないと、話を見誤ってしまいます。
なんとバターは、チーズなどと違って、脱脂粉乳と水を加えれば加工乳として販売できる状態に戻せてしまうのです。
もしもニュージーランドなどの乳業大国から、安くて美味しいバターを一般業者が仕入れられたら、いくらでも牛乳に戻して販売することも出来ます。
このため農林水産省は、日本の酪農家を保護するという名目で、バターに対して360%というとてつもなく大きい関税をかけています。
これは500円のバターが2000円以上になるとてつもない税金であり、一般業者には絶対にバターを輸入することはできません。税金無しで輸入できる農林水産省の独占です。
バターが不足になると、農林水産省が外国から安くバターを仕入れ、メーカーや企業など、絶対にバターがなくてはならないところに売りさばきます。
そしてそのバターの運用と利益は、なぜか農林水産省ではなく、農林水産省の天下り団体である『農畜産業振興機構』が管理することになっています。『農畜産業振興機構』の役員報酬は総計2億円、一般職員でも平均年収665万円と、国家公務員の平均を超えます。
2億円の役員報酬を支えるバター利権
農林水産省のOBなどが大半を占める『農畜産業振興機構』が、バターの輸入と運用を行っていますが、バターが不足ではなくとも、毎年バターの運用だけで10億円もの利益を得ています。
バターが不足し始めた2012年には23億円。
2014年にはとてつもない量のバター輸入を行い、60億円以上の利益を得たとも言われています。
この団体の仕事は、書類を作ることだけです。
こうした背景から、バター不足騒動には、「自分で読みを失敗して原因を起こし、自分で儲けて解決している茶番である」という批判が跡を絶ちません。
バターのみならず、このような搾取の構造は日本中にはびこっています。
我々一般人こそが、「なんとなく」でお金を支払う時代から、よく考えて本物を見抜く目が必要になっているといえるでしょう。
今話題になっているTPPにおいては、乳業大国であるニュージランドが、バターなどの市場開放を許すよう日本に訴えかけています。
当然市場開放すれば、すべてのバター不足は解消されるものの、日本の狭い世界で行われていた乳業のルールも大きく変わり、日本の乳製品が価格を下げてもニュージーランドと競争しなくてはならないのは避けられません。
これを、乳業も他の業種と同じく国際競争すべきという声もあれば、日本の酪農を守り続けるべきという声もあり、賛否が巻き起こっていますが、この話に触れるのは別の機会としましょう。
このようなバター不足でさわがしい我々の家庭のすぐそばで起きている本当の騒動について、常に目を向け賢い消費者であり続けたいものです。
出典元
http://yuu73.xsrv.jp/butter