知人の体験談だ。
事件が起きたのは、
冬場の満員電車だった。
空気は乾燥しており、
車内は暖房のせいで、
満員にもかかわらず乾燥していた。
彼の前に髪の長い女性が、
背中を向けて立った。
次の瞬間、
彼の目に飛び込んできたのは、
異様な光景だった。
女性の髪が、
するする彼に向かって、
宙を泳いできたのである。
静電気だ!
そう思って逃げようとしたが、
手遅れだった。
髪は彼の唇に触れた。
同時に、
「バチッ!」
弾けるような音ともに、
唇に痛みが走った。
唇が裂けたのではと思うほどの痛みだった。
まったくもって、
この時期の静電気は油断ならない。