ベンベエの詩的つぶやき

世の中をちょっと斜めに見て・・・

ポエムの窓

2007-03-02 22:39:21 | 

         牛肉

 

     カウボーイの焼くぶ厚いステーキに

     生唾をこらえながら

     粗末な一室で白黒テレビを抱えていた

     ある日 どうにも我慢できず

     「スエヒロ」に飛びこんだ

     初めて目にするビフテキ

     血の滴るミデアムレアーに醤油をかけると

     大学一年生のひと月分の小遣いが飛び

     四ッ谷や九段の方角から微かに

     シュプレヒコールが聞こえていた*

     あの牛肉はどこへ行ってしまった

     噛むほどに味が染み出してきて

     のみ込んでしまうのが惜しまれる存在感

     「やわらかーい とろけそう」

     口に入れたとたん感嘆の声があがる

     「サシがこんなに入ってますから」

     店主が自慢する

     霜降りの特選黒毛和牛だという

     いったい脂なのか肉なのか

     これでは牛も自力で立ってはいられまい

     咀嚼を忘れてしまったホモサピエンス

     軟らかいことは即ち美味いことなのか

     馬を降りたカウボーイたちが

     日本向けの走らない牛を育てている

     へなへなした軟弱な牛

  * 六十年安保闘争