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今を予測していた映画

2017-05-10 07:57:50 | 映画
「ゼロ・グラビティ」の着想をもたらした今映画。
アメリカとメキシコの国境にある砂漠を不法移民たちが越えようとする。
まさにタイムリーに米国大統領の言葉と重なる。
トラックが故障し、徒歩での横断を余儀なくされた総勢15人の男女は、意識を朦朧とさせながら道なき道を急ぐ。
だがそこに突然の銃声。謎の追跡者によって一人、また一人と命は奪われ、生死を賭けた旅路はより緊迫感を増していくことに――。
「メキシコとの国境」といえば米大統領による壁建設の公約でも注目を集めているが、ホナスはそこに声高に政治的主張を挟み込むことなく、目の前に広がる圧倒的な自然環境こそを最大限に活かしながら濃厚なアクションとサスペンスを紡いでいく。
この辺り、父から学んだ映画哲学が大いに受け継がれているのがわかる。
言うまでもなく、命がけで越境する登場人物たちにはそれぞれに抱え持った事情があり、ドラマがあるはず。
しかしそれらを冗長に語らせる手法はとらない。
伝えられる情報は最小限。あとは演者の表情や身体から湧き上がってくるものに委ねるのみ。
例えばガエル・ガルシア・ベルナルは移民問題に深い関心を寄せてきたことで知られる。
その経験と知識はこの映画でも自ずとスクリーンに投影されリアリティを生み出しているし、一方、本作にスピルバーグの「激突!」(71)的な緊張感をもたらすジェフリー・ディーン・モーガンに至っては、もはや言葉を超えたミステリアスな存在感のみで自らを存分に語り尽くす。
そんな両者が激突する無情の砂漠。これほど広大な空間なのに、視点をどんどん息詰まる閉所へと導いていく動線も、まるで壮大な“だまし絵”のように巧妙だ。
かくも本作は「状況」によって観る者の想像力を刺激してやまない。
また、多くを語らないという選択は逆に、世の中に存在するあらゆる次元の「壁」を観客に意識させることにもつながるだろう。
偉大な父にはまだ遠く及ばないが、ホナスもまたここで一つの壁を超えた。
スクリーンに映し出される水平線のように、可能性は無限に広がっている。