礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

昭和12年(1937)における農地法案について

2012-12-06 06:15:09 | 日記

◎昭和12年(1937)における農地法案について

 いつ入手したものか忘れたが、手元に『官報付録週報 別刷』第二一号(内閣印刷局、一九三七年三月一〇日)という冊子がある。林銑十郎内閣総理大臣「五箇条御誓文奉戴七十年に当りて」、文部省「五箇条御誓文の由来」、農林省「農地法案に就て」など、興味深い記事が掲載されている。
 本日は、その中から、「農地法案に就て」を紹介してみよう。
 近時、戦時戦後体制連続説というのが盛んになっている。戦後の農地改革なども、戦後の占領下で、いきなり実施に移されたものではなく、戦前戦中に、ある程度の「下地」が作られていたとされる。一面で、こうした見方は当たっているだろう。この資料なども、そうした戦時戦後体制連続説を裏づける一史料となるだろう。
 ただし、この史料を紹介するのは、そうした戦時戦後体制連続説を支持したいからではない。戦時戦後体制連続説の当否については、いずれまた論じたいと思う。
 早速、紹介にはいる。引用にあたっては、漢字、仮名づかいなどを現代風に直した。

 農地法案に就て     農林省
 一 農地制度改善の必要なる理由
 農地制度の改善は農業政策の根本であり、従って農地制度の改善を目標とする農地法の制度は農業立法の基礎法である。
 いかなる農業政策も農地に関係をもたないものはほとんどないといってもよいほどであり、関係の最も少ないように想はれている副業または農村工業でもその原料の大部分は農産物による関係上これを農地の問題と切り雛して考えることはできない。耕地面積の少ない農家では、概して耕地の大部分を挙げて米麦等食糧農作物を栽培しているために、副業に供する農作物を栽培する余地地が少ないので、農業経営および農家経済の改善の重要な政策として農業経営の複雑化すなわち多角形化が主張せられ、副業および農村工業の普及奨励がなされても、耕地面積の少ない農家にあってはその奨励の効果を充分に享受することはできない。
 農地は農家にとって最も安定した生活手段であり、耕作面積の少ない農家は最も経済界の変動に対して弾力性に乏しい。農村不況ともなればこれらの農家が深刻なる影響を受けるのであって、耕地の少ないことは農業政策の効果を及ぼす上に非常な苦心を伴わせる。
 村の経済更正をおこなう上においても、これら農地の少ない農家の存在のために足並みが揃わずに困る場合が多いのであってそのためにも耕作面積を増加してその経済の更生を図る必要がある。
 村が恵まれているかどうかは、耕地の多少、その分配の良否、自小作関係が如何に〈イカニ〉なっているかを見れば大体が解る位であって、それほど農地関係は農村および農業者に重要なる関係をもっている。
 国家構成の要素としての農村の重要性は今さら語るを要しない。農村の健全な発達如何〈イカン〉は国の盛衰に直接の関係をもつ。ことに健全な思想と健康との供給地として国の隆昌は健全なる農村の存在にかかっているというも過言ではあるまい。
しかるに最近の経済的および社会的環境の変化は、農村事情の特殊性とあい俟って農村を極度に疲弊せしむるに至った。かかる農村事情の特殊性の中、根本的のものであるところの農地問題について少しく検討して見よう。
(イ) わが国は他に例を見ない小農国である。
 内地における農地の現状を見るに、耕地面積六百万余町歩〈チョウブ〉、農家戸数五百六十余万戸、農家一戸あたりの耕作面積はわずかに一町歩余である。東北地方、北海道その他二三の県を除けば一町歩以下の地方が多い。それに自作地は全耕作地の半ば余に過ぎないのであって、約半ば近くは小作地であり、収益の半分は小作料として地主の収得となる。現に小作関係にある農家は七割に及んでいる。
かかる状況であるから農地の拡張は今後も奨励せられねばならないが、他方農村人口の増加もあるから、これを以てしても農家一戸あたりの耕作面積の増加にはさしたる影響を与え得ないのであって、かくのごとく運命づけられた農村事情の範囲内においてできるだけの改善策が講ぜられなければならぬ。

 まだ続くが、本日はここまで。
 いかにもまわりくどい文章だが、要するに農林省は、何としてでも農地制度を改善したい旨を、ここで表明しているのである。具体的には、小作農を減らし自作農を増やしたい、そのために今、「農地法案」を作成しているので、賛同してほしいと訴えているのである。
 ちなみに、ここで「農地法案」というのは、翌一九三八年(昭和一三)四月二日に成立した「農地調整法」(昭和一三年法律第六七号)の法案を指していると思われる。【この話、続く】

今日の名言 2012・12・6

◎農村の健全な発達如何は国の盛衰に直接の関係をもつ

 農林省の言葉。『官報付録週報 別刷』第21号(内閣印刷局、1937年3月10日)所載、「農地法案に就て」に出てくる。上記コラム参照。

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