◎参謀本部編『諜報宣伝勤務指針』とその複製版
昨日、早稲田大学1号館で、NPO法人インテリジェンス研究所主催の第1回諜報研究会が開かれた。白井久也氏(日露歴史研究センター代表)、山本武利氏(NPO法人インテリジェンス研究所理事長)、太郎良譲二(中野二誠会会長)の報告は、それぞれ非常に興味深いものだったが、当日、配布された資料もまた貴重なものであった。
その資料のひとつに、『諜報宣伝勤務指針』の複製版があった。この資料は、山本武利氏が提供されたものであるが、活字の感じからすると、和文タイプで打たれたものと思われる。「諜報宣伝勤務指針」という八文字のみのシンプルな表紙に続いて、刊行者による「刊行のことば」がある。
刊行のことば
本書は、嘗て参謀本部第二部、陸軍駐在武官及び陸軍中野学校における施策の参考、手引書及び教材の骨子として使用された軍事極秘扱の情報原則書である。終戦時、幸に焚書を免れ秘蔵されていたが、今回本会において本書の趣旨に応えんがために複製し、広く同憂の諸賢に頒ち、研鑽の資に供せんとするものである。
昭和三十一年三月
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図書刊行会
■■■■■■の部分は、マジックのようなもので消されて読めなくなっている。
続いて、短い序文。これは原本にあった序文であるが、「序文」などの文字はない。
本指針ハ諜報、宣伝ニ関スル勤務遂行上ノ著眼並其用意等ニ就テ一般普通ノ通則ヲ教示シ此種勤務ニ従事スル者ノ為ニ執務ノ準縄ヲ与フルヲ目的トス而シテ之ヲ実務ノ上ニ活用スルノ妙機ハ一ニ当事者ノ熱誠ト変通自在、機略縦横ノ手腕トニ存ス
昭和三年二月
参謀次長 南 次郎
このあと、四ページにわたって目次が続き、そのあとで、本文となる。
『諜報宣伝勤務指針』の内容については、昨日の研究会における山本武利氏の報告「参謀本部編『諜報宣伝勤務指針』について」で、詳しい説明があった。これまで私は、この『諜報宣伝勤務指針』という文書の存在自体を知らなかったので、大変勉強になった。
なお、山本武利氏によれば、上記の「復刻版」を作成したのは、陸軍中野学校を卒業し、陸軍参謀本部第二部第八課四班にいたことがある平館勝治という人で、その事情は次のようなものだったらしい。
作戦と謀略について記述した「謀略宣伝勤務指針」という軍事極秘の本がありました。第八課で私が保管担当していました。終戦の時、国土決戦の研究資料として私が借用していましたが、焼却するのが惜しくなり、そのまま保存しておりました。その後、世の中も落着いてきましたので、1956年3月、複刊のことばをつけて、100部だけ自費で限定印刷し、中野学校関係者に配りました。原本は印刷の際、失ってしまいました。その後、この指針は河辺正三大将が参謀本部第4班時代(少佐)、駐独武官補佐官当時、ドイツ軍から入手した種本をもとにして編纂したものであることを、陸上自衛隊調査学校における講演記録から知りました。
この証言は、長崎暢子、田中敏雄、中村尚司、石坂晋哉編『資料集インド国民軍関係者証言』(研文出版、二〇〇八)に収録されているという。【この話、続く】
今日の名言 2012・12・23
◎謀略宣伝勤務指針ハ之ヲ各憲兵隊及憲兵練習所ニ配布致度
憲兵司令官から陸軍大臣に対し、『謀略宣伝勤務指針』一八部の増配を要請する文書(昭和三年三月三日付)に、この言葉があるという。山本武利報告「参謀本部編『諜報宣伝勤務指針』について」より。上記コラム参照。