礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

昭和12年(1937)「農地法案」の大要

2012-12-08 06:04:38 | 日記

◎昭和12年(1937)「農地法案」の大要

 昨日の続きである。『官報付録週報 別刷』第二一号(内閣印刷局、一九三七年三月一〇日)所載、農林省「農地法案に就て」のうち、「三 農地法案の大要」の部分を紹介したい。
 
 三 農地法案の大要
 法案第一条において「本法ハ互譲相助〈シウジョ〉ノ精神ニ則リ自作地ノ創設維持及農地ノ使用牧益関係ノ調整ヲ図ルヲ以テ目的トス」る旨を明言しているが、この第一条は本法運用の根本精神を示したものである。由来〔もとより〕農村生活に直接の関係ある法律の運用はこれに関係ある村の人々の互譲相助の精神によってその効果が挙がるのであるが、この意味において、この精神を貫く一つの現われとしての本法は強力な制裁をもって強制することは避けられている。
 小作関係の紛争の調整はもちろんのこと自作農創設維持をなすにも、農地の譲渡、価格等について譲り合うことがなければ円滑に運用することはできないのである。法案はこの趣旨にもとづいて村々に農地委員会を設けることとした。この農地委員会は全然新しいものではなく、従来の自作農創設維持施設に伴うて、設置せられている町村の自作農創設維持審議会と従来村に存在している小作委員会とを一緒にする考え方であって、この農地委員会の自治的な働きによって、自作地の創設または維持の斡旋、土地売却の斡旋、小作契約の将来に向かっての改定(一時的小作料の減免その他小作条件の変更を含まず)その他自作農創設維持、小作関係の調整、ならびに農地制度改善に関する事項について村々の事情に即する斡旋をなすのである。なお自作農創設維持については、道府県、市町村その他の団体が相当の規模にておこなうときは一定の規準によるべきものとして、自作農はもちろん事業者にも後日累〈ルイ〉を及ぼずことのないようにとの注意が払われた。なお開墾適地の開拓による自作農創設については道府県、市町村その他の団体において土地を買い取り、農家の事情によっては一時これを貸付けて漸次〈ゼンジ〉自作農にするが如き方法についても考え、これに便する規定がなされれた。また創設維持せられた自作地はなるべくこれを保持するために濫りにこれを売却し、貸付けし、または自作廃止をなすことを禁じ、これに違反した場合においては、年賦金の一時償還をなさしめ、あるいは一定の金額にてその土地を事業者において取得する等の方法を採りうるものとし、さらにこの制眼を第三者に対抗することを得せしむるために自作農創設維持の登記制度を新たに設けた。
 小作関係については善良なる小作関係の保全を念として、これが規定がなされた。したがって善良な小作関係の当時者にとっては本法の成立はなんらの関係もないといっても過言ではない。
 なお法案においては、小作地の賃貸借〈チンタイシャク〉はその登記なき場合においても小作地の引渡しありたるときは、爾後〈ジゴ〉その小作地につき物権を取得した者に対してその効力を生ずるものとして、耕地の売買によって生ずる弊害をできるだけ少なくすることとし、小作地返還争議の未然防止を期している。従来小作契約は小作料の滞納等小作人に不都合の行為なき限り、また地主において耕地の用途の変更、自作等の必要なき限り永く小作を継続することが普通の慣行であるので、この良習を保存するに必要な規定が設けられ、永小作〈エイコサク〉についてもまた同様の主旨で規定がなされた。従来小作料の増減にもとづく小作契約の変更は往々紛争の種であったので、したがってまた小作契約を平穏に永続せしむるためにも、永年継続している間に小作料に関する条件が周囲の事情の変更によって著しく不相当になった場合には将来に向かって当事者において小作料の増加および軽減を請求することができるものと定められている。小作地の転貸借〔またがし〕は従来その実例は比較的少ないが色々の弊害を件い小作紛争の原因となり、地主も非常に迷惑を受けていたので、現在のものはこれを二十年か間に整理するものとして、団体による転貸または疾病〈シッペイ〉その他やむをえずして転貸する場合の外〈ほか〉はこれをなすことをえないものとした。その他小作地返還の場合の作物等の買取り請求権に関する規定、請負〈ウケオイ〉耕作その他本法の適用を免るる〈マヌカルル〉目的を以てする契約を賃貸借と看做す〈ミナス〉旨の規定、自作農創設維持にかかる登録税免除に関する規定、本法施行の際現存する作株賠償に関する規定等が設けられた。

 本日は、ここまで。なお、「農地法案に就て」は、この「三 農地法案の大要」のあとに、「四 結語」があり、最後に、「農地法案要旨」がある。

本日の名言 2012・12・8

◎本法は強力な制裁をもって強制することは避けられている

 農林省の言葉。『官報付録週報 別刷』第21号(内閣印刷局、1937年3月10日)所載、「農地法案に就て」に出てくる。ここで「本法」とは、1937年の段階における「農地法案」を指す。この言葉に、同法案の漸進的というか微温的性格がよくあらわれている。上記コラム参照。

*お知らせ* 雑用が重なって時間がとれず、明日は、コラムをお休みします。「農地法案に就て」は、ここまで来ましたので、全文を紹介するつもりですが、再開は明後日になります。

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