映画『スノーデン』 予告編
先日の「チリの闘い」に続き、2月1日の公休日も「スノーデン」の映画を観て来ました。この日も映画ファースト・デーという事で、格安料金で映画を観る事が出来ました。来月3月1日の公休日もファースト・デーなので、当分は立て続けに映画を観る事になるでしょう。
この映画は、米国諜報活動の闇を暴いた元諜報部員エドワード・スノーデンの実話に基づくものです。映画は、軍隊に志願したスノーデン青年が、訓練中の負傷により除隊になった所から始まります。軍医から「別の形で国に貢献しろ」と言われたスノーデンは、得意分野のITスキルが活かせるCIA(中央情報局)に就職します。そして、同じ頃、後に恋人となるリンゼイ・ミルズと交流サイトで知り合い、付き合い始めます。保守派で「愛国者」を自認するスノーデンに対し、リベラル派で政府の戦争政策にもノーと声を上げるミルズ。全く正反対な二人でしたが、やがて互いに魅かれ合うようになります。
しかし、CIAの通称「ザ・ヒル」と呼ばれる訓練センターでのサイバー戦の実態は、当初スノーデンが思い描いていた「愛国活動」とは、似ても似つかないものでした。今まで「テロの脅威から米国市民を守る為の活動だ」と信じていたものが、実際は、他国の名も知らない市民や子供たちを、テロリストだという明白な証拠もないまま、無人機で一方的に爆撃するものだったのです。しかも、攻撃目標は他国だけではありません。自分が守るはずの当の米国市民をも、監視と諜報活動のターゲットにするものでした。
精神を病んだスノーデンは、ミルズとも仲たがいし、失意のうちにCIAを退職します。やがて民間企業の契約社員となり、ミルズともよりを取り戻したスノーデンに、CIA訓練センター時代の教官から、NSA(国家安全保障局)の仕事を紹介されます。ちょうどブッシュからオバマに大統領が変わった時期で、米国もこれを機に新しい国になると期待したスノーデンは、その仕事を引き受ける事にしました。しかし、そのNSAの通称「トンネル」と呼ばれる秘密基地での業務も、CIAと同様、無実の市民をテロリスト予備軍として監視するものでした。例えば、「ブッシュ」「アタック」とキーワードをパソコンに入力するだけで、その言葉が含まれた世界中のメールやブログの文章を覗き見る事も出来てしまいます。
NSAの業務は市民監視だけにとどまりません。本来は米国の同盟国であるはずの欧州各国や日本の要人のメールや発言をも、同様に監視していたのです。しかも、話はそれだけにとどまりません。もし、日本政府がこれまでの卑屈な対米追従外交を改め、日米安保条約からも脱退を表明するような事態になれば、その時は、NSAが日本のインフラ施設に密かに仕掛けたマルウェア(不正プログラム)を稼働させ、病院や送電線、ダムなどのコンピューターに誤作動を起こさせるような計画まで立てていたのです。ここまで来れば、もうNSA自身が立派なテロリストです。
スノーデンにNSAの仕事を紹介した教官に、ミルズとの私生活の様子も、遠隔操作によってパソコンのウェブカメラで覗き見られていた事を知ったスノーデンは、このNSAによる「秘密警察」のような市民監視の実態を、マスコミに暴露する事を決断します。NSAから盗み出した通信監視プログラムのコピーを、自分の持っているルービックキューブの中に隠し入れ、秘密基地の出入り口にある金属探知機を潜り抜け、遂に外部に持ち出す事に成功します。そして、2013年、英国紙ガーディアンに、スノーデンの告発がスクープとして、世界で初めて公開される事になりました。
CIAによる市民監視の実態をマスコミにリークしたスノーデンは、やがて米国政府からスパイの罪で告訴されます。スノーデンは、外国を転々とした末に、最終的にロシアに亡命する事になります。現在はミルズと共にモスクワで暮らしています。スノーデンは言います。「私は監視国家の闇を告発した英雄か?はたまた国家の裏切者か?それはあなた方一人一人が判断して欲しい」と。
以上が、この映画のあらすじです。私は、この映画を観て、真っ先に「共謀罪」法案の事が頭に思い浮かびました。政府は、次の日本での五輪開催を機に、テロ取り締まりの口実で、「テロ等準備罪」新設法案として、この法案の国会提出を目論んでいます。この法案は、一見すればテロや組織犯罪の取り締まりに限定されるかのような体裁をとっていますが、何がテロで何が組織犯罪なのか、政府は一向に明らかにしようとはしません。これでは、犯罪の定義も明らかにしないまま、犯罪が行われる前から、市民を一方的に容疑者扱いして、「互いに目くばせしただけでも共謀行為として罰する」と、令状も無しに予断に基づく捜査が横行するようになります。そんな事になれば、そこらじゅう冤罪(えんざい)事件だらけになってしまいます。
それに対して、「警察の取り調べを可視化し、録音や録画を公開すれば、法案の濫用(らんよう)を防げるのではないか?」という事を、「維新の会」が主張しています(NHKニュース:「テロ等準備罪」新設法案 維新が対案提出へ)。一見もっともらしい主張ですが、取り調べ段階以前の盗聴・尾行も含め、違法捜査の全体そのものを問題にしなければ何もなりません。別にその時は逮捕まで至らなくても、違法な情報収集によって市民のプライバシーがいつも丸裸にされた状態では、いつ何時、でっち上げ逮捕や別件逮捕が行われるか、分かったものではありません。そういう意味でも、大変勉強になった映画でした。
ただ、心配なのはスノーデンの亡命先です。「亡命先がプーチン独裁下のロシアでは、トランプ独裁下の米国とも五十歩百歩ではないか?もう少し、まともな亡命先は無かったのか?」と、それだけが気がかりです。
共謀罪法案の危険性については、下記の法学者の声明も是非参考にして下さい。政府の言い分がことごとく破たんしている事が、これを読んでもよく分かります。いくら「テロ等準備罪」と名前を変えたところで、その本質が「共謀罪」であり「平成の治安維持法」である事は明らかです。五輪開催は単なる口実に過ぎず、本当の狙いはテロ対策に名を借りた治安強化、憲法改悪や自衛隊の海外派兵を強行する為の監視体制作りにある事は、もう疑う余地がありません。
共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明 2017年2月1日
政府は、これまでに何度も廃案となっている共謀罪を、「テロ等準備罪」の呼び名のもとに新設する法案を国会に提出する予定であると報道されています。しかし、この立法は以下に述べるように、犯罪対策にとって不要であるばかりでなく、市民生活の重大な制約をもたらします。
1. テロ対策立法はすでに完結しています。
テロ対策の国際的枠組みとして、「爆弾テロ防止条約」や「テロ資金供与防止条約」を始めとする5つの国連条約、および、その他8つの国際条約が採択されています。日本は2001年9月11日の同時多発テロ後に採択された条約への対応も含め、早期に国内立法を行って、これらをすべて締結しています。
2. 国連国際組織犯罪防止条約の締結に、このような立法は不要です。
2000年に採択された国連国際組織犯罪防止条約は、国際的な組織犯罪への対策を目的とし、組織的な犯罪集団に参加する「参加罪」か、4年以上の自由刑を法定刑に含む犯罪の「共謀罪」のいずれかの処罰を締約国に義務づけているとされます。しかし、条約は、形式的にこの法定刑に該当するすべての罪の共謀罪の処罰を求めるものではありません。本条約についての国連の「立法ガイド」第51項は、もともと共謀罪や参加罪の概念を持っていなかった国が、それらを導入せずに、組織犯罪集団に対して有効な措置を講ずることも条約上認められるとしています。
政府は、同条約の締約国の中で、形式的な基準をそのまま適用する共謀罪立法を行った国として、ノルウェーとブルガリアを挙げています。しかし、これらの国は従来、予備行為の処罰を大幅に制限していたり、捜査・訴追権限の濫用を防止する各種の制度を充実させたりするなど、その立法の背景は日本とは相当に異なっています。ほとんどすべての締約国はこのような立法を行わず、条約の目的に沿った形で、自国の法制度に適合する法改正をしています。国内法で共謀罪を処罰してきた米国でさえ、共謀罪の処罰範囲を制限する留保を付した上で条約に参加しているのです。このような留保は、国会で留保なしに条約を承認した後でも可能です。
日本の法制度は、もともと「予備罪」や「準備罪」を極めて広く処罰してきた点に、他国とは異なる特徴があります。上記のテロ対策で一連の立法が実現したほか、従来から、刑法上の殺人予備罪・放火予備罪・内乱予備陰謀罪・凶器準備集合罪などのほか、爆発物取締罰則や破壊活動防止法などの特別法による予備罪・陰謀罪・教唆罪・せん動罪の処罰が広く法定されており、それらの数は70以上にも及びます。
一方、今般検討されている法案で「共謀罪」が新設される予定の犯罪の中には、大麻栽培罪など、テロとは関係のない内容のものが多数あります。そもそも、本条約はテロ対策のために採択されたものではなく、「共謀罪」の基準もテロとは全く関連づけられていません。本条約は、国境を越える経済犯罪への対処を主眼とし、「組織的な犯罪集団」の定義においても「直接又は間接に金銭的利益その他の物質的利益を得る」目的を要件としています。
3. 極めて広い範囲にわたって捜査権限が濫用されるおそれがあります。
政府は、現在検討している法案で、(1)適用対象の「組織的犯罪集団」を4年以上の自由刑にあたる罪の実行を目的とする団体とするとともに、共謀罪の処罰に(2)具体的・現実的な「合意」と(3)「準備行為」の実行を要件とすることで、範囲を限定すると主張しています。しかし、(1)「目的」を客観的に認定しようとすれば、結局、集団で対象犯罪を行おうとしているか、また、これまで行ってきたかというところから導かざるをえなくなり、さしたる限定の意味がなく、(2)概括的・黙示的・順次的な「合意」が排除されておらず、(3)「準備行為」の範囲も無限定です。
また、「共謀罪」の新設は、共謀の疑いを理由とする早期からの捜査を可能にします。およそ犯罪とは考えられない行為までが捜査の対象とされ、人が集まって話しているだけで容疑者とされてしまうかもしれません。大分県警別府署違法盗撮事件のような、警察による捜査権限の行使の現状を見ると、共謀罪の新設による捜査権限の前倒しは、捜査の公正性に対するさらに強い懸念を生みます。これまで基本的に許されないと解されてきた、犯罪の実行に着手する前の逮捕・勾留、捜索・差押えなどの強制捜査が可能になるためです。とりわけ、通信傍受(盗聴)の対象犯罪が大幅に拡大された現在、共謀罪が新設されれば、両者が相まって、電子メールも含めた市民の日常的な通信がたやすく傍受されかねません。将来的に、共謀罪の摘発の必要性を名目とする会話盗聴や身分秘匿捜査官の投入といった、歯止めのない捜査権限の拡大につながるおそれもあります。実行前の準備行為を犯罪化することには、捜査法の観点からも極めて慎重でなければなりません。
4. 日本は組織犯罪も含めた犯罪情勢を改善してきており、治安の悪い国のまねをする必要はありません。
公式統計によれば、組織犯罪を含む日本の過去15年間の犯罪情勢は大きく改善されています。日本は依然として世界で最も治安の良い国の1つであり、膨大な数の共謀罪を創設しなければならないような状況にはありません。今後犯罪情勢が変化するかもしれませんが、具体的な事実をふまえなければ、どのような対応が有効かつ適切なのかも吟味できないはずです。具体的な必要性もないのに、条約締結を口実として非常に多くの犯罪類型を一気に増やすべきではありません。
そればかりでなく、広範囲にわたる「共謀罪」の新設は、内心や思想ではなく行為を処罰するとする行為主義、現実的結果を発生させた既遂の処罰が原則であって既遂に至らない未遂・予備の処罰は例外であること、処罰が真に必要な場合に市民の自由を過度に脅かさない範囲でのみ処罰が許されることなどの、日本の刑事司法と刑法理論の伝統を破壊してしまうものです。
5. 武力行使をせずに、交渉によって平和的に物事を解決していく姿勢を示すことが、有効なテロ対策です。
イスラム国などの過激派組織は、米国と共に武力を行使する国を敵とみなします。すでに、バングラデシュでは日本人農業家暗殺事件と、日本人をも被害者とする飲食店のテロ事件がありました。シリアではジャーナリストの拘束がありました。安保法制を廃止し、武力行使をしない国であると内外に示すことこそが、安全につながる方策です。
こうした多くの問題にかんがみ、私たちは、「テロ等準備罪」処罰を名目とする今般の法案の提出に反対します。(呼びかけ人、賛同者氏名―略、以上)