前回のブログ、読んでくださった方からメールがありました。
「要するに、国(アメリカや欧州)や医者によって、違う言い方や認識ということですよね?一般人にとっては、これは重要な点です」
いろんな人が自分の好きなように、病名をつけているのが現状です。
自分の中では、はっきりと定義づけて病名を使っている方もいらっしゃるでしょうが、それが共通理解になっていないのです。重症度にしても、客観的な基準はありません。周りが困らせられる症状なのかどうかだけが基準です。(私たちは脳機能で客観的に重症度を判定します)
ちょうど面白い資料が届きました。ある町の800人ちょっとの介護保険申請者の内、原因疾患が「認知症」とされている方が185人。その人たちの内訳です。
この表を眺めると、いくつもの疑問がわきあがってくるでしょう。
何故、「認知症」といういい方とその他の言い方があるのだろうか?
(ちょっとややこしいので左表の病名としての認知症をカッコつきで「認知症」と書きます)
「認知症」はすべての認知症を含んだ言い方なのだろうか?それならば、なぜその他の表現があるのだろうか?
「認知症」と、その他の病名の違いはなんだろうか?
老人性認知症と老齢期認知症はどこが違うのだろう?
アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症は違うだろうがこの二つと「認知症」の関係は?
混合型認知症は何が混合しているのだろうか?この病名が許されるなら、何が混合しているかさておき、高齢者にとっては「混合している状態」はたった2.2%どころかもっとたくさんあるに違いない。
軽度認知障害がたった1人しかいない!軽度があってだんだんに重度化していくのが世の中の常識なのに認知症の0.5%しかいない?たくさんいるけれども、たった一人だけ特別に認定されたということ? それに突然「機能障害」という表現が出現するのはなぜ?
アルツハイマー型認知症とアルツハイマー病は違う病気?それとも同じ病気?
私たちは、前回のブログで説明したようにこの二つをはっきりと区別して使います。
アメリカではアルツハイマー病と いっしょくたにしますが、正確にはアルツハイマー病早発型(本来のアルツハイマー病)とアルツハイマー病晩発型(アルツハイマー型認知症と言われたタイプ)と使い分けているのです。
蝋梅が満開と聞いてさっそく!
繰り返しますがアルツハイマー病(早発型)は、遺伝子異常がベースにあるタイプです。そのために必ず若い年齢で、どんなにいきいきと脳を使って、充実した生活を送っていても発症します。
そして、進行が早く2~3年でコミュニケーションが取れないほど悪化してしまい、寝たきり状態になります。
徘徊や不潔行為というのではなく、脳機能の低下が著しいのでほんとに何もできなくなってしまうのです。その症状を直視するのはあまりにもつらいためにテレビなどの取材は、非常に難しいものがあります。ほとんど一般の方たちには目に触れることもないでしょう。
渡辺謙主演の「明日の記憶」という映画がありました。あれは若年性認知症と言っていましたね。
49歳現役サラリーマンが発症、発症初期の描写は、その混沌さが見事に表現されていて、多分こんな感じではないかと(発症初期のアルツハイマー病の方に出会ったことはありませんし、私は発症してないので真実は不明)思いながら見ました。
進行の速さは描かれていましたが、その悲惨さについてはやはりぼかされていたと思います。
あんなに甘いものではありません。
私たちはもっともふつうのボケを表すのに、アルツハイマー型認知症という表現を使います。
高齢者が、何らかのきっかけ(退職・別離・病気やけが・心配ごとの発生などなど)で、それまでの生活とまったく変わって、「生きがいのない・趣味や交友を楽しむことのない・運動すらしない」ナイナイ尽くしの生活を続けるうちに、だんだん生活上にトラブルが起きてきて、しかも年単位で次第に重症化していきます。
徘徊を起こしたり、夜中に騒いだり、家族がわからなくなったりして、ようやく世間が言うところの「気の毒にあの人ボケたんだって」と、認知症が完成する、そんなタイプをアルツハイマー型認知症と私たちは言います。世の中の人たちが一番よく知っている「普通のボケ」のことです。
よくしたもので世の中の認知症の大半(90%以上)がこのタイプです。
どうも、上記表のうちの「認知症」はそのパーセンテージの高さからも、もっともふつうのこの認知症を意味しているのではないかと思われます。
また、表のうちアルツハイマー病と診断された7人の年齢は、下表のように
76,77(3),80,81,88歳でした。
これは遺伝子異常のタイプではなく、アルツハイマー病晩発型つまり普通のアルツハイマー型認知症と考えればいいですね。
そうすると、「認知症」、アルツハイマー型認知症、アルツハイマー病は同じ概念を表しているだろうと思えませんか。合計80%です。
老人性認知症と老齢期認知症はどうでしょうか。年齢を見てください。71歳の一名を除き見事に高齢の方が揃っています。これも特殊な認知症と考えるよりも、ごくごく普通に高齢の方がボケてしまった状態を指しているのではないでしょうか。一昔前は認知症のことを老人性痴呆や老年期痴呆と言ったのですよ。合計87%!
ごく普通の町の開業医の先生方の診断です。
自由に病名を使っている様子がなんとなくわかってくれましたか?
はっきりとした診断基準がないまま(文献的にはありますが)世の中の流れに沿って、ボケを認知症と言い換えて、それにプラスしてアルツハイマー型やアルツハイマー病になったり。
そうそう、昔風に老人性や老齢期を使ったりもしていらっしゃいます。
でもそのほとんどが「普通のボケ」を意味していると思います。
血管性認知症についてはまたいつか詳しくお話しをしたいと思います。
さしあたって、せめて遺伝子既定のアルツハイマー病だけは別にしていただきたいと思います。