友人から電話。
「今テレビで認知症の新しい薬のことやってる!」
「うーん。又レカネマブ。か、イーライリリーの新薬の話かな」と思いつつせっかく電話をくれたので見ました。
案の定…見終わって大袈裟なようですが、ちょっと暗澹たる思いに苛まれました。
「認知症になる原因をアミロイドベータとかタウタンパクに決めつけている」
庭で初めて見つけたこの写真はpicture this によれば「ヤマノイモ」。確かにムカゴに似てるような気もします。
あの権威あるネイチャー誌から「アミロイドベータ説にデータ捏造を初め多くの疑義が生じている。検討中」という発表がなされてもう2年くらいたっていると思います。
私たちは、認知症になるかならないかは次のように考えています。
根本的な要因は、アミロイドベータやタウ蛋白ではなくて、その人の生活ぶり…つまり脳の使い方による。
元来老化していく宿命を負った脳機能の使い方が悪いと老化が加速されて行き、とどのつまりが世の中でいう認知症の状態になる。
ちょっと難しい表現を使えば、脳が廃用性機能低下を起こしてしまった結果が認知症ということです。
どんなに精緻な研究や新しい研究であっても、その前提に間違いがあったら…暗澹たる思いというのもわかっていただけるでしょうか?
塊になり始めたアミロイドベータを除去。当然より早い時期つまり若い時からの対応になります。発症が2-3年遅れるとして、じゃあいつまで投与するのでしょうか?
それ以前に、投与してアミロイドベータを除去し続けていても、2-3年しか持たないというのはどういうことなのでしょうか?どうしようもなくたまるということでしょうか?
「レカネマブは認知機能低下を2-3年遅らせる」とありますが、発表時には1.5年後にCDRで比較したら27%効果があったという内容でした。
実はこの件について、このブログで疑義を表明しています。
もう一度まとめて見ましょう。
「27%の進行抑制:CDRで偽薬群1.66低下。投与群1.21低下。その数値をこのように計算します。
(1.66-1.21)=0.45/1.66×100≒27
これが27%の進行抑制ができたという発表の根拠です。
注目すべきは投与群でも悪化している点と、もう一点、今回の統計処理は個人内での変化ではなく集団的に処理していることです。
さらに、CDRは観察による評価なのでバイヤスがかかってしまうのに、数値で表すので客観的な印象がある点です。
CDRは、生活を「記憶」「見当識」「判断力 問題解決」「社会適応」「家庭状況 興味関心」「介護状況」の6分野から観察して5段階に評価するものです。5段階は「健康(CDR0)」、「認知症疑い(CDR0.5)」、「軽度認知症(CDR1)」、「中等度認知症(CDR2)」、「重度認知症(CDR3)」。
まったく何の問題もない正常な場合は0点、最重度は18点。
ただし数値化されていても「誰かが評価したもの」ですが。
0.45の改善というのは、つまりどの分野で見ても1段階の改善もない。ということなのです。
もともと1~2点の変化で初めて臨床的意義があるとされています。
以上が進行抑制に関する、私からの丁寧な疑問です。
次の画面は早期発見のために必要な検査のことです。
上にあげた私のブログでも、PETは高価。腰椎穿刺による検査は負担が大きい(痛い)。と解説してありますが、テレビから流れるコメンテーターの声を聞いてちょっと耳を疑いました。
「高いと言っても7万円ですから、得られる利益とのバランスですよね。それに結局は高額医療費で戻ってきますから」と言う発言!
個人負担が3割で7万円ということは、一回のPET検査にかかる医療費は23万円できかないということです。それを年に2回実施します。7万円にしろ0円にしろ、個人負担がいくらであれ、かかった医療費は間違いなく医療機関に支払われます。その老人医療費が増大して大きな問題になっていることをこんなに簡単にスルーしていいのでしょうか?ついでに言えば介護費用だけでも23年度予算で13.5兆円になっています…マスコミはどんな姿勢で国民に向かうつもりなのでしょうか?
次のテーマは、認知症を早期の段階で見つける方法として、高価なPET検査や痛みのある腰椎穿刺でなく血液検査があるという話に移りました。
以下は島津製作所のHPからの抜粋です。
「島津製作所と国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(長寿研)が共同して、血液数滴からアミロイドβの蓄積量を推定するのに有効なバイオマーカーを発見しました。」
血液数滴でチェックできると聞けば、誰でも朗報と思います。
でも大問題があります。
この研究の前提は「認知症の原因はアミロイドベータの蓄積があるということ」ですね。ランセットが「研究結果の数値に改ざんがある」と調査中。元々仮説として発表されたアミロイドベータ仮説が否定されるかもしれない状態なのですよ…
本当に専門家たちはどこに行こうとしているのでしょうか?
今回の番組では東大の岩坪教授が解説されていましたし、言及されませんでしたが、島津製作所の血液マーカーの研究は、田中耕一さん、ノーベル賞受賞者のあの田中耕一さんがトップとしての研究成果です。(2年くらい前に一般の人たちにも報道されました)
いうわけで、せっかくの友人のお知らせも予想通りの、明るい展望につながるものではありませんでした。
by 高槻絹子