新・本と映像の森 130 佐藤貴美子『銀の林』新日本出版社、1998年
270ページ、定価本体1900円
これは小説です。主人公は名古屋の設計事務所に勤める中森晶(しょう)と池田文雄の2人。
二人の恋愛と仕事上の建築トラブル、そして現実の「名張事件」がからみあって物語は進行していく。
晶は38才、独身、ひとりぐらし。
文雄は23才、独身、おばあちゃんと2人で住む。
流れのなかで2人それぞれにあるいは共同して発揮する人間性と主体性に、ボクは強く共感します。
晶は名張出身で名張との縁も深い。偶然、2人は救援運動に係わるようになり、事件のナゾを追い始める。
「名張事件」は1961年に三重県名張市で女性5人が毒で死亡し、容疑者として逮捕された奥西勝さんが死刑囚とされ、2015年獄中で89才で亡くなりました。
奥西さん本人も、この『銀の林』は「ノンフィクションの部分が8割位、私が体験した記憶と照合しても確実です。」(『救援新聞 1999年2月5日 (4)面』)と書いています。
< 目次 >
1章 年下の男
2章 姉の謎
3章 偽証
4章 結婚
5晶 バブル
6章 国民救援会(1)
7章 国民救援会(2)
8章 現場
9章 削除キー
10章 雨戸を開けたのは誰
11章 12人の怒れる男
12章 片手落ち
13章 母
14章 「女」
15章 名古屋拘置所
16章 「ひそかに情をつうじ」
17章 銀の林
「名張事件」を知るには最高の最初の1冊。小説・フィクションとしても1級だと思います。
誰でもがもつ「奥西さんが犯人でないなら、では真犯人は誰なの」という疑問には、どう答えるのでしょうか。
ボクはぼんやりと浮かんできたように思いますけれど、考察はまた別の機会に
ところでこの小説のテーマを一言で言え、と言われたら「女性の苦しみ」と答えると思います。
< 訂正 4月26日 >
犠牲者を4人と書きましたが5人でした。訂正します。