新・本と映像の森 251 松谷みよ子『私のアンネ=フランク ー 直樹とゆう子の物語 ー』偕成社、1979年
253ページ、NDC913、定価950円
ボクが結婚前後に読んだ本そのもの。司修さんの絵が光っている。
これは「直樹とゆう子の物語」の第3作。家族は母親蕗子と長男直樹と妹ゆう子と猫のフウコ。
第1作「ふたりのイーダ」(1969年)と第2作「死の国からのバトン」(1976年)の次ぎだが、今回はルポライター蕗子さんと中学生になっているゆう子さんが主役であり、大学生になった直樹さんはすこし出てくるだけである。また2人の異能も影を潜めている。
形から言えば、これは日記文学だ。しかしアンネ=フランクにあてた手紙文学でもある。「ゆう子よりアンネへ」と「蕗子よりアンネへ」が交互に進行する。
設定は1978年の夏から秋です。蕗子さんは、ちょうどアンネ=フランクと同年齢であることに気づいてショックを受ける。
蕗子さんは友人とアウシュビッツへ取材旅行に行く。ゆう子さんは家で日常生活を送りながら「アンネの日記」を読む。
「ゆう子よりアンネへ」で日本の昔話のパロディはおもしろくて、ずっと覚えている。「はなさかじじい」「こぶとりじいさん」「桃太郎」。
現代に生きながら、3人の心は過去と現在を、戦争の時代と平和の時代とを横滑りする。
テーマは単純に戦争ではない。「いかに憎しみと向き合うか」である。そのための試金石が、蕗子さんが津軽のばあさまから聞いた民話「鬼の目玉」です。
みなさんは直接「鬼の目玉」を読んでくださらないと、意味はないので話は略す。
蕗子さんは、この「鬼の目玉」の話の結末をどうするのか迫られる。娘は若者から預かった鬼の目玉をどうするのか。鬼に返すの?それとも?
扱いを一歩間違えれば、死臭累々となります。アウシュビッツのように。まあ、いつの時代も、どこの国もそうなんですけどね。
あなたは何を見ますか?
鬼の目玉が見えますか?
この本を読むと、単純明快に蕗子さんやゆう子さんや直樹さんに同調できなくなる、一人ひとりが自分の考えで生きることを迫られる、そういう本だとボクは思います
以下、過去の「本と映像の森」で松谷みよ子さんを取りあげたもの。
◎ 「本と映像の森 307 松谷みよ子さん『いない いない ばあ』童心社、1967年 2014年07月13日 18時59分27秒 | 本と映像の森」
◎ 「新・本と映像の森 120 松谷みよ子『死の国からのバトン ー 直樹とゆう子の物語ー』偕成社、1976年」
◎ 「新・本と映像の森 150 松谷みよ子『いない いない ばあ』童心社、1967年 2018年07月02日 16時30分28秒 | 本と映像の森」
◎ 「新・本と映像の森 210 松谷みよ子『アカネちゃんと涙の海』講談社文庫、2012年」