新・本と映像の森 253 田中啓文『忘却の船に流れは光』ハヤカワ文庫、2007年
田中啓文(ひろふみ)、早川書房、556ページ、定価本体860円、原書2003年早川書房
SFです。
ハチャメチャ卑猥暴力的SFだけど、暗さは微塵もなくてバカ明るく底流の暗さを笑い飛ばす・・・でもダークです。こういうのもボクは好きです。
この世界は悪魔がやってきて滅ぼされようとして、「壁」で都市を囲い、閉鎖世界を築いて「殿堂」が支配する都市で生き延びる。
というとクラークが『都市と星』で描いた永遠都市ダイアスパーに似ている。周囲が砂漠であることも、侵略者への恐怖におびえることもそっくりだ。
しかく器械による秩序が保たれるダイアスパーに比べて、この世界はダンテの地獄世界に似ている。つまり人間の色と欲望に満ちている。
この世界はいろいろな人種と階層に分かれている。以下、この世界の辞書です。
単語 読み
悪魔 デーモン
世界 デパツア
主 スサノオ
奇豚 キートン 肉を食用にされる砂漠の生き物
遊牧民 フリーター 血原砂漠で奇豚を遊牧する
踊り子 ダンサー 砂漠の生き物のひとつ。巨大なタマゴのようで浮遊する
聖職者 すさのおいや 生まれつき男だけだがペニスがない
神学士 にせどん 聖職者候補
警防者 サクラダモン 口に牙、指に鋭い爪があり警察専門
耕筰者 はたらきもの 6本の腕をもつ
普遍者 ありきたり 一般人。最下位の第5階層に住む
修学者 がりべん 巨大な頭をもつ
保育者 めのと 3対の乳房をもつ養育専門の人間
雌雄者 いざなぎ・いざなみ 生殖専門の人間
こういうユニークな人間たちが編み上げて築く物語。
主人公は神学士のブルー。ブルーはダンテ『神曲』にように地獄・煉獄・天国を巡り、そして・・・・・・