新・本と映像の森 257 江川紹子『名張毒ブドウ酒殺人事件 六人目の犠牲者』新風社文庫、2005年
424ページ、定価本体848円。
1961年3月28日夜に起きた名張毒ブドウ酒事件の一番の定本といわれているようです。事実、とってもいい本です。
ただし各自の考察は江川紹子さんに頼っては、いけないと思います。事実と論理、物証と人証によって事件を解読していきましょう。
① 事件は三重県名張市と奈良県山添村の県境、葛尾(くずお)集落でおきた。葛尾は人口140人ほどで三重県側18戸、奈良県側7戸からなる。(p15)
② 1961年3月28日夜に生活改善クラブ「三奈の会」総会に集まったのは32人。総会が終わり、会食が始まって数分後、異変は起きた。男たちは酒を飲んで、女たちはブドウ酒を飲んだ。その女たちが苦しみ出したのだ。
③ 女たちのうち5人が死亡、10数人が中毒で入院した。
死亡したのは 大石章子 (30才)
奥西千鶴子(34才)
木田ユキ子(36才)
永山富美子(36才)
新谷啓 (26才)。(p23~24)
④ ブドウ酒から農薬・有樹リン系のテップ(TEPP)剤が検出された。テップ剤にはニッカリンT・エヌテップ・日曹テップ・ニチリンなど数種類がある。(p31)
⑤ 警察は会場の混乱で「現場保存」を怠ったため現場の指紋などは証拠として出ていない。
⑥ 現場で農薬は見つかっていない。犯人とされた奥西勝さんがニッカリンを買ったのは本人の証言によって確かだが、その現物は見つかっていない。だから毒物がニッカリンだというのも警察の憶測である。その後、弁護団によってニッカリンは当時、赤だったことが判明した。(p287~298)
⑦ 本を読んだかぎりでは警察が集落全戸の農薬調査をした形跡はない。
⑧ ブドウ酒に農薬を入れる可能性のあるのは警察が言うような会場だけではなくて、それ以前にお酒とブドウ酒が届けられた大石さん宅でもあった。その場合、農薬を入れたのは、当然、奥西勝さん以外の人になる。
⑨ 犯人特定の決め手とされた王冠が、ほんとうにその夜、そこで開けられた王冠であるという証明はない。会場からは王冠十数個が発見されている。しかも高裁で有罪となった王冠いついての科学者の実験がかなりあやふやなものであったことはのちに弁護団によって解明された。(p299~312)
⑩ 人証による人の動きについては別途、解析表を書いて考えることにする。ひとつ特筆すべきことは、証言は警察の介入助言によって何回も帰られている。そのことは記録にも出てくる。
⑪ 現地の「葛尾」集落の状況と「動機」についても次回の課題とする。
⑫ 現時点ではボクが言えるのは、可能性としては「名張毒ブドウ酒殺人事件」ではなく「名張毒ブドウ酒事件」だった可能性があるということです。つまり亡くなった5人の女性のなかに周りを巻き込んだ自死者がいた可能性があると思います。