風のささやき 俳句のblog

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冬の夕日に【詩】

2024年12月12日 | 

「冬の夕日に」

あのときの冬の夕日は
まだ心を濡らしている
病院の帰り道
少し震えながらハンドルを握り
放心したように運転をしていた

淡い橙色に車も濡れた
対向車は音もなく
違う世の乗り物のようだった

地球はそのとき
一つの橙の実であった
その表皮を上る坂は
空につながる道だった

そのまま走って
夕日に溶けてしまえと思った
炭酸水に浸かるように
体がピリピリとしびれていた

きっともう長くは生きない母
それを否定する言葉を心は否定し
その予感は3日後に
その通りになった

その夜は何を食べたのだろう
笑いを浮かべもしたのかしら
笑わせようと力むテレビを眺め

思ってもみなかった
どれだけの心象が
心を飲みこむのだろう
身の丈以上に慌て
棚から牡丹餅の幸いに酔い
たくさん過ぎて抱えきれずに
涙をもって誰かに届きたい
「分かって欲しい」と

ああ、あの時と同じ
冬の夕日だ
真っ直ぐな道は橙の鏡
夕日が落ちるその先にまで
僕は歩いたよ

少しは優しい人に
なれているのかしら

「頑張るよ」 と
誰に向かってでもなく言い

「器が大きくなくて
 でも 僕なりに」 と



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