新鹿山荘控帳

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野口健「世界遺産にされて富士山は泣いている」

2014-07-26 17:17:17 | 読書
富士山が世界遺産に認定された裏に、影にこんな事実があったとは、驚きと幻滅と憤りを感じます。
さらにこのような重大な問題提起をした本が6月に出版されたのにどこでも話題になっていないのはなぜか、深く考えさせられる今です。

世界的な登山家である野口健氏が、富士山清掃活動をしていることは有名であります。
その彼が長年の清掃活動から肌で感じた、霊峰富士を取り巻く現実をあきらかにしていきます。

○ひと夏の登山者30万人が捨てるゴミ、さらに不法投棄される産業廃棄物など。昨年も一か所から1800本の古タイヤが投棄されているのが見つかったそうです。本来の収容人員を数倍も越える登山者を受け入れる山小屋は、当然周辺に悪影響を引き起こします。ヘッドランプを付けた日帰り登山の列が、夜の富士山に列を作っています。

○世界遺産には自然遺産と文化遺産がありますが、富士山は「自然遺産」ではなく「文化遺産」で申請していたのです。なぜ、白神山地や屋久島のような「自然遺産」ではなく法隆寺や姫路城のような文化遺産に登録したのか。

○仮免状態の自然遺産登録だったこと。日本中で「バンザイ」していますが、2016年2月までに「保全報告書」の提出を求められているのです。その結果いかんでは、「危機遺産」リスト入りや最悪の場合、登録取り消しになるそうです。
その内容を少し長くなりますが紹介しますと、
  ①文化的景観の手法を反映した資産の総合的な構想
  ②来訪者戦略
  ③登山道の保全手法
  ④情報提供戦略
  ⑤危機管理戦略の策定に関する進展状況
  ⑤管理計画の全体的な改定の進展状況  などだそうです。

どれもこれも縦割り行政の日本では、全く苦手な分野です。

○富士山をどこが管理するんのか
富士山の頂上は私有地です。さらに山梨県と静岡県の県境が明確ではありません。さらに、環境庁や国交省などの縦割りです。そして地元の観光業者の思惑です。前述の報告書の検討も全く進んでいないそうです。責任を持って先頭に立とうとするリーダーや役所がいないのです。

環境保全や国立公園管理の長い歴史を持つ欧米の厳しい尺度で、世界遺産を管理するように要求してきているユネスコに納得できる回答が期限までに提出できるのでしょうか。

ごみを捨てたアジア人の登山者に注意したら係員が怒鳴り返されたそうです。遅れているアジアの環境保全に対するシンボルとして、先進国である日本の富士山における自然保護について、非常にきつい注文を付けてくる可能性があると野口氏は書いています。あの日本でもこのような処置をされるのだ、と言う事です。

県の財政における富士山のポジションも静岡県と山梨県では大きく違うそうです。

○世界遺産認定を目指して
認定されるといろいろなデメリットがあると言う事を、ほとんど表には出てこなかったと言う事。
さらに「富士山は、金になる山」という大きな流れがあって、「認定されるとこんな大変なこともある」と言う意見は隠されてしまったそうです。
野口氏がその辺をTVで話したいと言っても、断られたそうです。TVや新聞マスコミに巨大な影響力のある企業が認定活動の音頭を取っていたからではないでしょうか。

骨の髄まで富士山をしゃぶりつくそうとする人たちを、富士山は泣きながらあるいはせせら笑っているのかもしれないと、野口氏は最後に語っています。

重い内容の本ですが、週刊誌2冊分(760円 PHP新書)です。ご自宅の最寄駅から勤務先の駅までで読み切れます。是非一読をお勧めします。

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