今から33年前の1989年5月10日に44歳の若さで亡くなったショーのリーダー・ラスト・アルバム。死後、ライブ音源がかなり発掘されていますが、少なくともスタジオではこれがファイナルに違いなさそうです。
一部のディープなファン(自分も含め)が「過小評価、不当評価」と訴えるショーですが、リーダー作は20枚を超え、内、5枚はメジャーのコロンビアとなれば、それほどでもないのでないか、と思う(ようになった)。ひょっとしたら、こうした現象はわが国特有のものなのか。そもそも、ファンの間で本作はちゃんと聴かれているのか、甚だ疑わしい。
この作品は、スタンダードを中心に心地良いフォー・ビート・ジャズに徹し、新機軸、チャレンジ等々、全体のイメージをポジティブに語れる要素は何一つなく、カヴァ同様、地味に映る。マイルスで知られる”If I Were A Bell”からキック・オフし、折り返しのB-1にはハバードで知られる”You And The Night And The Music”と、二人の大先輩を意識した曲構成が示唆しているように本作はショーのtpプレイにフォーカスを当てて聴くべきアルバムです。
以前のような力みが消え、スケール感を失わずメロディアスに歌うスタイルに進化している。中でもペッパーの名演でも知られる”Imagination”ではソロに入ると緩やかなボサ・リズムに乗り、まるでエイジもののウイスキーのようなマチュアなソロを展開している。2週間前に、ハバードとダブル・ネームで”THE ETERNAL TRIANGLE”を録音したばかりで、2年前にも”DOUBLE TAKE”を録音しており、単なるステージ上の共演より密度の濃い体験から何かしらツボでも会得したのかもしれない。いつの間にか表現力が多彩に、しかも無理なく打ち出されてくる。因みに、以前、N・ヘントフが書いたライナー・ノーツの中でショーは影響を受けたトランペッターとして、モーガンから‘so witty and tricky’、バードから‘warm and lyrical’、ブラウンから‘so much warmth’を挙げ、リトルを「真に個性的」と、そしてハバードを「トランペッターが求める全てを正に有している」と最大級の賛辞を送っている。
なお、本作はV・ゲルダーによりデジタル録音されている(1987.6.24)。リアルタイムで聴いた時、薄くて硬い音と敬遠した記憶が残っていますが、改めて聴くと、全盛時代のエグさは無く、キレイ系の音に変わっている。ショーのペットは高音が澄み、撓うように伸び、ターレのtbも結構、エネルギッシュに、”Dat Dere”ではロリンズのアルフィーのワン・フレーズをさりげなく織り込み、豪快に吹き切り、普通に聴く分には上等でALTECも機嫌よく鳴っている。
ショーのライブで一番の思い出は1986年に山中湖で開催された”Mt.Fuji JAZZ FESTIVAL ’86 with BLUE NOTE ”です。フロント・ラインがハバード、ショー、そしてK・ギャレット(as)の3管で”Desert Moonlight”(月の沙漠)が始まると聴衆、総立ちになった。
ショーの「底力」が秘められた絶作。これからだったのに ・・・・・