眼視(めみ)も鮮やかな朱の世界で、純白のしもべが守るその扉の奥の世界。
ユートピアとは、語源的には、ノープレイス=何処にも無い場所、を意味するという。
多少なりとも誰でも人はそれぞれに思い抱くユートピアがある。
何処にも無い場所を切望するという、一見矛盾するその感性は、思う道理と現実の成り行きの狭間で、起こる狂気を緩和させる知恵であるかもしれない。
軽いユートピアは、重い現実に遭遇した我が精神を守る消炎剤として、機能しているような気がする。
その扉の向うには、なにがあるということでもなかろう。
朱に瞠目し、純白に慧眼することさえできれば、何処にも無い場所という、場所に佇むことができるはずではないか。
押し付けられるものでもなければ、押し付けることもできない。
珠には、自分を騙し騙し生きるのも知恵である。
今日の賢さは、明日の愚かさであるかも知れないから。
真白の狐は、そのように誘っているようだ。