なんとなくクラシテル

獣医という仕事をしている人間の生活の例の一。
ほとんどが(多分)しょーもない話。

所沢ミューズ

2018年07月01日 | 
に久しぶりに行く。今回は樫本大進君のリサイタル。ミューズは、バブル期建立の建物にありがちな、華美っぽいホールなんだけど、オルガンもなんとか使いこなしているようで何よりでございます。カザルスホールのオルガンなんか、どうしようもなくなっちゃってるみたいだものね。作った人が気の毒だ。

 リサイタルは大変熱い演奏で楽しかったんですが、気になったのは演奏自体ではなくて、一応関連はしてるけど、という奴。ピアニストの方が使っているのは、多分電子楽譜っぽい、けど、メクリストはどうなってるんだろう?
 演奏中譜面をめくる人を「メクリスト」と呼ぶ、のは音楽業界人間の業界用語っぽいんですけども。

 電子楽譜を初めて見たのは、NHKのストラドに関する番組。最後にパガニーニの曲を演奏したときに、伴奏のピアニストの方が使っていた。ただし、その時はメクリストはいたんです。その人が何やってたかというと、ボタンを押して、譜めくりしていた。便利そうで便利じゃないなあ、というのがその時の電子楽譜についての感想。ピアノ譜は大体分厚い(つまり重い)から、それが軽くなるのはよさげだけど、譜めくりは結局他人を煩わすわけかあ、と思って。そこんとこが大事なのになあ。

 ところが、今回のリサイタルではメクリスト不在。けど、演奏は滞りなく進む。なにか、秘策があるに違いない、それは休憩時間中に分かった。出てきた人が、フットスイッチのようなものをピアノ椅子の足元にセットしてたのだ。あー多分、それが譜めくり磯に違いない!!それを踏んでめくるんだ、きっと。いい物見つけたぞ~~!!

 ということで、帰ってから速攻検索。ちゃーんと出てくる。しかも、いつものアマゾンでなんと6000円弱で手に入るのか??たまげたなあ。。。。商品名は「ページターナー」というんだそうな。

 これの何が画期的かというと、暗譜から解放される~~から。

 暗譜、記憶力テストじゃあるまいし、何でやらなくちゃならんのか、全く意味不明だと思ってたんだけど。この件については、かつてN饗の指揮者をなさっていた岩城宏之さんが、の中で凄い話を書いておられたので、プロでも苦労するんだなあと感じ入ったのだ。
エピソード1:岩城さんの指揮が、若い音楽評論家にこき下ろされたことがあって、その評論家は、別の指揮者を「暗譜で振った」のがすごい、と絶賛したんだって。しかーし、その指揮者が暗譜で振った曲が「未完成」と「アイネクライネナハトムジーク」だったという。そんな曲、悪いけど自分だって振れるくらい、拍子だけなら超簡単、暗譜なんて別にしなくったって、曲を大体覚えてれば(で、クラシックファンなら誰だってほぼ覚えてるくらい有名)できるんだよね。クラシック評論家なんかそんなもん、という話。
エピソード2:変拍子の連続で超難しい「春の祭典」を暗譜で指揮して、振り間違えて、オケが止まっちゃった話。冷汗が出ますよ~~。

 暗譜して弾かなくちゃならない、という変な掟は、最近出来上がったものらしい。これも岩城さんの本に出ていたのだが、暗譜で初めて指揮したのはトスカニーニで、この人はめちゃくちゃ弱視で、暗譜しないとどうにもならない状況だったらしいのだ。必要に迫られてやむなく、だったのに、それを見た聴衆が「すご~~い」となって、他の指揮者もやらなくちゃならなくなった、ということなんだそうな。クラシックも結局はショービジネスで、評論家連中も含めて、聴く人を唸らせないと、次の仕事がしづらくなる。でもね、暗譜っていうけど、結局はただの暗記ショー、音楽表現とは全く別物の話なんだけど。

 あとね、発表会とかでも暗譜を強制されて、それで音楽がやんなっちゃう人って存外多いんじゃないかとも思っててね。

 患者さんがこないだ、こんな話をしていた。その方はエレクトーンをせっせとやっていたのだが、5級に上がれず、そこで挫折したという。5級というのはエレクトーンの先生資格が取れる級なのだそうだが、そのためになんと11曲も暗譜で弾かなくちゃならなかったんだと。無茶っすよ。その方曰く、「みーんな、そこでやめちゃってると思う」との事。エレクトーンについては、生徒の上達欲を利用して楽器を買換えさせたりする、ヤマハのえぐい商売にかなり問題ありと思っていたのだが、そんなトラップまで仕掛けとるのかい。呆れたもんだ。


 ただ、今やってるバッハについては、暗譜が必要、というより、曲の途中で何回も譜めくりが出てきちゃうので、曲を一曲通しで弾けないという困ったことが起きていて、結局曲が分かってる人に譜めくりをしてもらうか、暗譜して弾くしかないのかなあ、しかーし難しすぎて、どうやっても譜面から目が離れない。これじゃー結局、まともに弾けないじゃないかと思ってがっかりしていたのだ。

 しかーし、この画期的な道具を発見、どうにかなるんじゃないか?

 
 今回のリサイタル、伴奏の方はもちろん、樫本君も、譜面を置いて弾いていた。曲は有名な物ばかりで、彼ならおそらくもう、何回も本番にのせているはずなんだけど、それでも譜面を置く。自分的にはうんと誠実に思える。もう、こんなことどうだっていいじゃんねえ、テクノロジーに助けてもらえば、そのほうがうんと生産的ですよ。暗譜に使う時間を楽器に使えるもの。
コメント
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