10月1日に地域公共交通活性化再生法の改正法が全面的に施行されました。
この改正法の目玉が再構築協議会の設置です。おそらくは芸備線が再構築協議会の設置の第1号になるだろうと予想されましたが「やはり」ということになりました。10月1日から、朝日新聞社のサイトには芸備線に関する記事がいくつか掲載されるようになり、朝日新聞10月2日付朝刊1面14版△には「ローカル線再編 議論後押し 自治体と事業者 国が協議の場」、同3面14版には「赤字ローカル線協議 JR西以外は静観」という記事が掲載されました。また、10月3日の11時45分付で朝日新聞社のサイトに「JR西、赤字ローカル線の存廃協議を国に要請 全国初、芸備線が対象」(https://www.asahi.com/articles/ASRB26G7NRB1PITB005.html)として報じており、他にも関係記事が多く掲載されました。そして、10月4日付の朝日新聞朝刊30面14版に「JR西、再構築協設置を要請 広島・岡山の芸備線 国や沿線と存廃議論」という記事が掲載されました。
再構築協議会の設置は、JR西日本から国土交通省に要請されました。岡山県および/または広島県から設置が要請されることはないだろうとは思っていました。このブログに2023年6月29日7時0分付で掲載した「『議論の場』ではないというなら、一体何の場所?」に記したように、今年の5月10日に開かれた会合の冒頭で、広島県の地域政策局長が「芸備線の『あり方』についての議論の場ではございません」と発言したとのことですから、存続を前提とするのでなければ協議はしないという立場をとるのでしょう。しかし、JR西日本は、京阪神地区で稼いだお金を他の地方の赤字路線の維持に費やしているのであり、岡山県や広島県のみならず、北陸地方(Yahoo! Japan Newsに富山県の城端線および氷見線についての記事が掲載されています。また、2024年の北陸新幹線の延伸開業によって越美北線が孤立路線となってしまうため、同線の平均通過人員の低さと相まって動向が気になるところです)、山口県、鳥取県および島根県にも問題となる路線を抱えています。JRグループの経営姿勢に何の問題もないとは記しませんが、地元の姿勢にも「真剣に議論するつもりがあるのか」、「地元の将来像を考えているのか」など疑問が湧きます。
これまで、ただ芸備線としか記していなかったのですが、同線の全区間ではなく、備中神代駅から備後庄原駅までの68.5キロメートルの区間です。この区間の2019年度における輸送密度は48人であったとのことです。JR西日本はもっと細かく区分していますので、「データで見るJR西日本2022」60頁によりつつ、2022年度の平均通過人員を見ておくこととします。
備中神代駅~東城駅(18.8キロメートル):89
東城駅~備後落合駅(25.8キロメートル):20
備後落合駅~備後庄原駅(23.9キロメートル):75
備後庄原駅~三次駅(21.8キロメートル):327
三次駅~下深川駅(54.6キロメートル):988
下深川駅~広島駅(14.2キロメートル):8529
全区間(159.1キロメートル):1170
東城駅から備後落合駅までの区間の数値は、おそらく、JRグループで最低でしょう。この区間の数値は、2018年度において9、2021年度において13でしたので、上昇しているのです。おそらく、鉄道系YouTuberなどの鉄道ファンがわざわざ出かけては乗車しているのでしょう。実際、YouTubeを見ると芸備線を取り上げている動画がかなり多いのです。その意味では、地元民の利用は増えていないのかもしれません。
沿線人口が減少し、公共交通機関(鉄道は勿論、路線バスなども含みます)の維持が非常に困難になっている地域で、旅客輸送の手段を残す意味があるのか。これは非常に深刻な疑問でしょう。自動車、例えば乗用車の自動運転のレヴェルが上がれば、高齢者の運転免許の問題などもかなり高い確率で解決される可能性もあります。自動運転がコミュニティバスやオンデマンド交通の不便さを解消することにつながるのであれば、鉄道や路線バスはますます不要になるという結果になりかねません。
交通権論者がどのように考えているのかわかりませんが、交通政策基本法第5条第1項は交通手段の適切な役割分担を定めており、交通政策から自動車(自家用車などであって、公共交通機関に含まれないもの)を排除していません。つまり、自家用車から公共交通機関への転換(モーダルシフト)を意味しないのです。これは、交通基本法案の検討の段階において自動車業界から強い反発を受けたことによるものです。車社会と公共交通機関の共存あるいは並存と役割分担が、交通政策の基本に置かれるべきであるとしている訳です。その点において、交通政策基本法と地域公共交通活性化再生法との間には、矛盾とまでは言えなくとも食い違いがあります。
また、赤字ローカル線の存続の意味として、2024年問題に絡めて貨物輸送の強化を検討する地方公共団体もあるものと思われますが、その場合には線路等級を念頭に置かなければなりません。新幹線や東海道本線などの主要幹線であれば1メートルあたりの重量が大きいレールを使っているでしょうし、路盤なども整備されているでしょう。しかし、赤字ローカル線のレールはどうでしょうか。レールや路盤などがしっかりしている路線でなければ、貨物輸送は難しいかもしれません。中国地方のJR西日本の路線には、保線の合理化という理由の下に最高速度が時速15キロメートルに制限されている区間もあることもあげておきましょう(私が知る限りでは芸備線や福塩線の一部にあります)。これとは別に、JR貨物は自己の路線をあまり保有しておらず、他のJRグループ(など)に線路使用料を支払って貨物列車を運行していますから、現状のままでは貨物輸送の強化をするとしてもダイヤの編成などで困難を抱えることでしょう。物資によっては鉄道での輸送に向いていないものもあるかもしれません。
今、鉄道路線の維持を求める地方公共団体に望まれることは、何故に維持を求めるのかについて明確な理由を示すこと、維持される場合と廃止される場合とに分けた上で合理的かつ冷徹な検証を行うことです。夕張市などのように「攻めの廃線」(石勝線夕張支線の廃止)を行った結果、バス路線網まで崩壊の瀬戸際に立たされるのではどうしようもありません。逆に、空気しか輸送していないような鉄道路線を維持しても、ただ問題を先送りするだけでますます手が付けられなくなります。
逆に、最も行ってはならないことといえば、感傷、ノスタルジー、抽象的なメリットの列挙です。いずれも、公共交通機関の存続にとっては有害無益なものです。その意味では、鉄道ファンの思考に頼らないほうがよいかもしれません。これは私自身への戒めでもあります。
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