世界一周タビスト、かじえいせいの『旅が人生の大切なことを教えてくれた』 

世界一周、2度の離婚、事業の失敗、大地震を乗り越え、コロナ禍でもしぶとく生き抜く『老春時代』の処世術

消えた妖精

2017年04月13日 | 100の力
ありがとう、愛してた人

そしてさようなら


出会いは忍び足で静かにやってくるが、

別れは唐突にガラガラと音を立てて現れる。

それは人の信頼に似ている。

信頼を得るには長い時間を要するが、

失うのは一瞬である。


妖精が忽然と消えた。


 これはイメージです

それはいかにも唐突にやってきた。


行方不明、音沙汰なし。

連絡も途絶えた。

全くの音信不通。


いずれそうなると予想していなかったと言えばウソになる。

が、こういう展開でいきなり終末を迎えるとは正直思ってもいなかった。


一年半という短くも激しい恋だった。

少なくともボクにとっては。


ボクの役目は終わった。

それでいい、上手く利用され、使い捨てられても。

騙すより騙されるほうがまし。

(いつもそうでだから、もう慣れっこになってしまってるけど)


だけど、一番苦しい時ずっとそばにいてくれた。

おかげで今のボクがある。

心から感謝している。ありがとう。


ボクが君にとってどんな存在だったか、

今となっては知る由もないけど、

深い傷心の中にいた君に

少しでも何かしらいい影響を与えられたなら、

それだけでも出会った意味があったのではないだろうか。



彼女は、「共依存」という重い精神疾患を抱えている。


母親に生活の一部始終を支配され、夫を捨てボクに頼った。

そして今、35年ぶりに再会した実の兄のもとへと走った。

そして、あろうことか、絶対に越えてはいけない線を越えてしまった。


彼女の周りにはカルマが渦巻いている。

周りを不幸にするという宿命を背負って生まれてきたかのように。


その呪縛から彼女を解き放そうと、ここ1年半ボクはかなりの努力をしてきた。


親の因果かもしれない。

夫への裏切り、障害を持って生まれた子供、

そして不倫の恋人(元カレ)さえも自殺に追いやった。

その後、実の父親も自殺していたことが分かった。


彼女自身も、ボクと会う直前まで真剣に自殺を考えていたという。

まさに自殺の連鎖。



ボクと出会ったのは、彼女がそのドン底にいた時期だった。

ちょうどボクも未曽有の苦境に立たされていた。

お互い魅かれあうのも当然の成り行きだったのだろう。

僕達はお互いの傷を貪るように体を絡め舐めあった。


だが、彼女は実の兄と会うことでボクへの一切の連絡を絶った。

あまりにも突然に。

ボクへの思いも断ち切ったのだろう。

(「血は水よりも濃い」と言ってしまえばそれまでだが)

そしてまた、シナリオにはないキャストを登場させることで、ボクも彼女への想いを断ち切ることができた。



「共依存症」

誰かに依存していなければ生きてはいけない。

その依存先がボクから別の男に代わっただけのことだ。

ただそれが実の兄という男に。


35年前に親の離婚で兄妹は引き裂かれた。

現在40代半ば、独身、一人暮らしのその兄も不幸の中にあったのだろうか。

ひょんなことでお互いの存在を知り、共に魅かれあうのも当然の成り行きだったのかもしれない。

お互いに離れ離れだった35年間を肌の温もりで埋め合うのも頷けないこともない。

むしろ35年間というあまりにも長い隔たりがあったからこそ、兄妹という絆を越え、男と女の本能を目覚めさせるのにそう時間はかからなかった。


だがそれは不倫よりも罪深いものなのだ。

本来あってはならないことだ。
(ありがちなことではあるけれど)

分かっていてもそれを犯してしまうほど、彼女にはカルマが憑りついている。

ボクも危うく引きずり込まれるところだった。


ある知り合いの精神科の医者が言っていた。

「精神疾患の患者さんに下手に踏み込むと、

自分まで引きずり込まれる危険性があるので気を付けなさい」と。


ボクはうすうす気づいていた。

このまま関係を続けていれば、ボク自身も遅かれ早かれ自殺に追いやられるかもしれないと。

彼女は何かしらそうした不思議で不可解な力を秘めていた。

(それが魅力でもあったのだろうが)



ボクはかねがね不思議に思っていた。

なぜ彼女の元カレは自殺したのか。

(あえて聞くことはしなかったが)

ボクと出会った時、彼女はあまりにも深い悲しみの中にいた。

お互い愛しあっていればなにも自ら命を絶つほどことはあり得ないはずなのに。


その意味がこの1年半で徐々に分かってきた。



「追いつめる」

激しい激情に晒されれば、誰しも行き場を失うことになる。

自らの存在さえも否定されればなおさらだ。

狂おしいまでにそれは人を追いつめる。


その刃がボク自身にも向けられようとしていた。

最近とみにその異常さの発露が顕著になっていた。

よほど精神状態がしっかりしていないと、これは耐えられないだろう。


昔、妖怪のもとに通う侍が、身体を交えるごとにその生気を吸い取られていく物語があったが、

その話を思い出してボクは身震いがした。


幸か不幸か、彼女が越えてはいけない一線を越えたことで、

ボクはその呪縛から寸前のところで解き放たれた。

あとはこの傷が自然と癒えていくのを待つだけだ。

(少し立ち直る時間をください、3日ほど)


これから先、あの兄妹はどういう運命をたどるのだろう。

深い奈落の底へと落ちていくのだろうか。

たとえそれが分かっていても、もうボクにはそれを止めるだけの力は残っていない。


そして、障害を持つ子供はいったいどうなるのだろう。

いくら気をもんでも、もうボクの出る幕はない。


今思えば、なるべくしてなった結末だったような気がしてならない。

ボクはまた自由の身になって、世界を飛び回るよ。


美しい思い出だけを心に仕舞って、このページを閉じることにしよう。


さよなら、愛した人。

そして、ありがとう。