英の放電日記

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第72期名人戦 第4局 その6「もしかしたら、穴があった」

2014-05-30 21:45:32 | 将棋
もしかしたら、穴があった

 変化図4は、△7八飛(第10図)の代わりに△6四玉(木村八段が指摘)とした局面。
 “玉の早逃げ、八手の得”という諺があるが、この△6四玉は少し前に先手が垂らした歩を取っての上部脱出である。居飛車対振り飛車線の場合は玉の囲いが対峙しているので、垂らした歩を玉で取る手は、相手の勢力に近づくことになり危険なことが多いが、相居飛車戦の場合は攻撃陣の出動によりけっこう手薄になっていることが多い。本局の場合は、先手陣の玉に近いが、後手の6筋の厚みが非常に厚く、逃走路となる2~4筋の先手の勢力も薄い。
 先手玉は脇は空いているが、金銀が2枚玉の上部を守っており、玉の上部も一見開けており後手玉よりも安全度が高いように見える。
 しかし、9一の香、7三の桂も健在で、先手玉の行く手を阻んでいる。また、△7九角や△7八飛と先手玉に肉薄する手段には事欠かない。
 たとえば、△7九角には▲9八玉の一手で、△9五香や△9七歩が相当嫌味(△8五桂もありそう)。また、△7八飛▲9七玉の変化も、△9六歩に▲同玉とは取りづらい。▲同玉には8五に金気を打つ手がある。また、△9六歩に▲8六玉も△8五歩がぴったりとなる。さらに、▲8七に玉が来た時、△7六銀と殺到する手もある。
 それに、先手の指し手によっては△5八銀不成も有効だ。

 先手の優位点は、桂香得と手番を握っていること。
 しかし、駒得と言っても、4一の金は後手玉が6四にいる状況では完全に置いてきぼり。5八の金も“取り”が掛かっている。▲6七金と銀を取れば駒損は避けられるが、と金ができてしまう。
 得している桂香は、入玉将棋においては香車はともかく、桂はあまり有用ではない。一番必要な金も持っていない。(“お金”じゃないですよ)

 そもそも、上述したが、歩を垂らした手が無駄になっているのが痛い。極端に考えれば、△5四歩、▲6四歩、▲4一金、△5三玉、△6四玉の4手を時系列をいじると、「△5四歩▲4一金△5三玉▲6四歩△6四同玉……玉の逃げ道を開け、金を1段目に打って玉を上部に逃がし、歩を垂らしたのに、構わず△同玉と取られてしまった」ことになる。

 さて、変化図4で▲3一角、▲6一飛、▲8六飛、▲5六香、▲4七金など考えたが、私の棋力では後手玉を寄せられないか、先手玉が寄せられてしまう。
 羽生三冠ならうまく寄せられるかもしれないが、感想戦では「最終的には(3)▲3一角△5五玉▲5六歩△同銀上▲6六銀△同玉▲7七金△5五玉▲6七金上が示された。これも難しい」(名人戦棋譜速報)と結論が出なかったようだ。

 しかし、この手順は最善とは思えない。無理やり勝負将棋(難解な局面)に持ち込むために作った手順のように思える。
 羽生三冠は「難しい。追い方がひどいので入られている」
 森内名人は「上部にこれだけの駒がいるんだから出ていかなければならなかった」と述べている。
 △6四玉を逃したのは、時間切迫という自信の因かもしれないが、△7八飛や△7九角などの有力な手があり、その比較に気を取られてしまったのは不運だった。


 もしかしたら、絶賛された「▲6四歩~▲4一金~▲4二角の寄せ」には穴があったのかもしれない。続く





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