図の2手前に△4二玉で3二の金に紐をつけ、《次に、△8六歩▲同歩△8八歩の筋を行きますよ》と言ったのに、羽生九段はそれをスルーしたかのような▲3九金。
《では、行きましょう》と佐藤天九段、△8六歩。……来ちゃったよぉ……という第3図である。
尤も、▲3九金のところ、▲7八金と△8六歩からの筋に備えると、△2八歩▲1七桂△2九歩成という展開を覚悟しなければならない。これで先手がはっきり不利になるわけではないが、△4二玉と備えているので▲2五桂が必殺にならないので、先手としては面白くない。
いよいよ来た△8六歩に対し▲同歩と取って△8八歩を甘受して、▲3三飛成△同桂▲8八銀△8六飛▲8七歩と収める手段もあるが、妥協した感があり、先手番で誘導したい将棋ではないだろう。(ただ、一応▲3九金と2八に打たれる手を防いでいるので、大駒交換するのも一理あるかも)
△8六歩に羽生九段は▲5六角!……おそらく用意してきた手であろう。
棒銀のような飛車の縦の攻めに対し、飛車頭に歩を打って角の利きで飛車筋を止めて受ける手筋の角打ち。
構わず△8七歩成なら▲8三歩~▲8四飛で先手必勝になる。
この手に対し、手厚く△7二金とする手も有力。また、先手の狙いの▲8三歩は△8七歩成としなければ成立しない(二歩になる)ので、このタイミングで自陣を整備する手もいろいろありそうだ。
佐藤天九段は軽く△7四歩。▲7四同飛なら角の利きが遮られて狙いの▲8三歩が無効になり、▲7四同角なら▲8三歩に△7二飛で先手の攻めは空振りになる。この手は△7二金と違い、次に△8七歩成を可能にしていて、軽い手というだけでなく、積極的な手でもある(ただし、後に取られてしまう可能性もある)。
△7四歩を取れず、狙いの▲8三歩も無力化されて次に△8七歩成とされると敗勢なので、羽生九段も▲8六歩と手を戻すしかない。
ここで、後手の有力手は3つ。①△8八歩、②△7五歩、③7七角成。
①△8八歩……先の変化と同様に▲3三飛成△同桂▲8八銀△8六飛▲8七歩の進行が予想される。ずっと、ちらついていた後手の攻め筋を実現。意地っ張りの人はこう指したいのではないだろうか
②△7五歩……直前に△7四歩と突いており、続いてその歩を突き出すのは気持ちが良いので、突きたくなる。
③△7七角成……▲7七同桂△8六飛で飛車先を突破できるが、それ故、先手からの反撃は必至。6筋の金銀の壁形の上、先に角を渡しているので(銀角交換)、▲3二飛成からの猛攻を覚悟しなければならない。
どの変化もほぼ互角と考えられるが、佐藤天九段の指し手は②の△7五歩。
この△7五歩に平凡に▲7五同歩と取ると△7六歩が厳しい手になる。角の利きがあるので▲8八銀は只、▲6八銀は△9九角成、▲6六銀は△8六飛で飛成が受からない。
よって、△7六歩には▲3三飛成と切って▲8八銀と引くしかないが、これまで出てきた▲3三飛成~▲8八銀の時より、条件が悪い。よって、羽生九段は左方の守備力をアップする▲7八金。
以下、△7六歩▲6六銀△8六飛▲8七歩△8五飛▲7四飛△8八歩▲同金△6四歩▲同飛△5二金▲7四角(第5図)と進む。
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