問題図は▲8二銀の「詰めろ」に対し、後手は「大丈夫、大丈夫」と受けないで他の手を指したところです。私の実戦の場合、「詰めろ」を掛けて、「勝った!」と詰ましにいったら、読み抜けがあって愕然としたことが多々あります。が、今回は大丈夫です。さあ詰ませましょう!
まず、一番自然な、▲8一銀不成(いただきマウス図)。
この手は、王手をしながら、いただきますと桂馬も取れるので、一石二鳥で調子よく見えます。ところが……
△9三玉(さよなライオン2図)と逃げられてしまいます。桂馬が手に入ったので、あきらめずに▲8五桂と王手を掛けても、△8四玉(失敗図)で捕まりません。
失敗してしまいました。では、もう一度問題図に戻りましょう。
失敗の原因は9三に玉を逃がしたことです。
こうなった理由は二つ考えられます。
①桂を取りながら王手という気持ちよさに釣られた
もちろん、それでいい場合もあります。実際、桂馬の入手が大きいこともあります。本問の場合は、失敗図のように捕えられませんでしたが、もし、自陣の歩が7六と9六に伸びていれば、▲7五金(場合によっては図)で詰みます。
ただ、通常は王手をして上部に逃がすのは、「さよなライオン」とぽぽぽぽ~んのあいさつをされることが多いと覚えておいてください。
さて、▲8一銀を誘発した原因はもう一つあります。
②問題図の段階では、8二の銀が9三にも利いていた。
「9三に玉を逃がしてはいけない」ということは分かっていて、桂馬を取るまでは、9三に利いているので逃げられないと思い桂馬を取るのですが、銀を8一に動かすと、9三への利きも消えてしまうことをうっかりしてしまうのです。
整理すると、①「上部(9三)に追っては(逃がしては)いけない」という意識の弱さと、②「銀を動かすと9三に利きがなくなってしまう」という読みの欠如、が原因です。
さて、ここで、読みと感覚の飛躍(一段階ステップアップ)が必要です。
「▲8一銀不成とすると9三に逃げられてしまう」
↓
「もし、9三に逃げられないようにしてから▲8一銀歩成とすれば詰む」
↓
「9三に逃げられないようにするにはどうしたらよいか?」
と、いう発想になれば、もう少しです。
通常、9三に逃がさないためには、9三の地点に自分の駒を利かせておけばよいのです。持ち駒に桂があれば▲8五桂、角があれば▲6六角と利かせておいて、それから▲8一銀不成と指せばいいのですが、本問の場合は角も桂もありません。
しかし、実は、たとえ持ち駒に角や桂があっても、それらの手よりももっといい手があるのです。
それが「逃げ道封鎖の手筋」です。
上記のように、自分の駒の利きで逃げ道を封鎖するのが通常の手段ですが、相手の駒をそこに移動させて逃げ道に栓をさせてしまうのです。
自分の駒を栓をしたい地点に移動、或いは打って、その駒を相手に取らせることによって逃げ道を封鎖するのです。
もう、お分かりですね。▲9三金!(一閃図)
このテクニックを知らないと、「問題図で8一の桂がなければ、▲9三金で簡単なのに、桂いるのでせっかく打った金を取られてしまう」と▲9三金は除外してしまいますね。
▲9三金には△同桂
の一手です。もし、実戦でこの手を指して、相手がこの技を知らなかったら、「しめしめ、桂馬が利いてるのをうっかりしているぞ」と喜んで金を取ることでしょう。そこで、▲8一銀不成!(解決図)
相手は飛び上がるのではないでしょうか。
問題図より▲9三金△同桂▲8一銀不成までの3手詰です。
よくよく考えると、もともと8一の桂は王手でタダで取れるのですが、それは失敗してしまい、逆に▲9三金と金を献上して取れる桂を逃がしてしまってから▲8一銀不成とするのが正解なのです。
良くできたパズルだと思いませんか?
ちなみに、問題図で持ち駒が飛車だったらどうでしょうか?
問題図と同じですね。飛車は勿体ないですが、同じように捨てれば、同じように詰みます。
つまり、9三に捨てる駒は前に利く駒ならなんでもいいのです。
歩でも成立します。
だから、有段者はこういうことを見越して、あらかじめ9筋の歩を▲9五歩△同歩と突き捨てておくのです。
こうしておけば、持ち駒は歩で済みます。(突き捨てておかないと「二歩」になります)
今回は「逃げ道封鎖」のテクニックでした。
前回の「引っ張り込み(おびき出し)」のテクニックもそうですが、詰将棋だけでなく、実戦の寄せでも役に立つ痛快なテクニックです。
ただ、「逃げ道封鎖」は主に詰将棋で活躍し、「おびき出し」は実戦でも詰将棋でも活躍、「(下段に)引っ張り込み」は実戦で忘れてはならない基本です。
封鎖とか包囲とか・・・刑事物の踊る大捜査線の映画を想像しちゃいました。
解説も、根気がいる作業ですが、丁寧にわかりやすく感謝です。
>封鎖とか包囲とか・・・刑事物の踊る大捜査線の映画を想像しちゃいました。
そうですね。玉を犯人見たいに扱っちゃてます(玉さん、ごめんなさい)。
でも、そう考えると分かりやすいですね。サスペンスもので、刑事が脇役の場合、すぐ犯人を逃がしちゃいますが、そうならないようにしたいものです。
>解説も、根気がいる作業ですが、丁寧にわかりやすく感謝です
くどくどと長くなってしまいますが、よろしければお付き合いください。コメントが負担にならなければ良いと思っていますが、コメントくださると嬉しいのでペースが上がります。
>「詰ます」ためのテクニックって結構深いですね
知っているのと知らないのとでは、かなりの差がありますね。もちろん、知らずに自力で解くのもすばらしいと思います。詰将棋のテクニックはともかく、実戦のテクニックは知っておくと便利です。(詰将棋をやりすぎると、やたら駒を捨てたくなります)
>相手に気が付かれないようにやらなきゃいけないでしょうし
相手の虚を突くのも楽しいですが、相手が最善手を指すのを前提で、指し手を組み立てるのが将棋の醍醐味です。
>Kの解説は、とっても簡単なので、英さんに本当に感謝です。
そうですか、無理に付き合ってくださっているのではと心配しています。そう言って下さると嬉しいです。