漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 1101

2022-11-04 06:22:43 | 古今和歌集

そまひとは みやきひくらし あしひきの やまのやまびこ よびとよむなり

そま人は 宮木ひくらし あしひきの 山の山彦 よびとよむなり

 

紀貫之

 

 樵(きこり)たちが宮殿を造るための木を伐り出しているらしい。山の山彦が大きな声で呼び交わし合っているのが聞こえる。

 古今和歌集の「本文」と言うべき巻第二十までの歌のご紹介は昨日で終了。今日からは残り11首の「墨滅歌(すみけちうた)」をご紹介します。「墨滅歌」とは何か。冒頭には

 家々称証本之本乍書入以墨滅歌 今別書之

と、なぜか漢文での説明が記されています。読み下すと「家々に証本と称する本に書き入れながら、墨を持って滅(け)ちたる歌 今別に之を書く」。家々で、正しいと称する本に書き入れてありながら、それを墨で消してある歌、それを今、他の歌と分けてここに書き記す、というわけです。
 そこには、これらの歌が書かれていた場所も記されていて、ここから 1105 までの五首は「巻第十 物名歌」。そしてこの歌の詞書には「ひぐらし」、左注には「在郭公下 空蝉上」とあります。「ひぐらし」を詠み込んだ物名歌で、書かれていた場所は「郭公(0423)の次、空蝉(0424)の前」ということを表しています。なかなかきめ細かい記述ですね。元あった場所の前後の歌の再読と併せてご覧いただくのも一興でしょうか。

 


古今和歌集 1100

2022-11-03 06:32:42 | 古今和歌集

ちはやぶる かものやしろの ひめこまつ よろづよふとも いろはかはらじ

ちはやぶる 賀茂の社の 姫子松 よろづ世経とも 色はかはらじ

 

藤原敏行

 

 賀茂の社の姫子松は、万代を経ても色が変わることはあるまい。

 詞書には「冬の賀茂の祭の歌」とあります。「ちはやぶる」は枕詞。普通は「神」に掛かりますが、ここでは 0487 と同じく「賀茂」に掛かってますね。「姫」「子」はいずれも小さいことを表す接頭語です。

 さて、今日ご紹介する歌は第1100番。古今和歌集全巻の最後です。松の木を永遠を歌うこの歌を最後にもってきたのは、古今和歌集が末永く世に伝わってほしいという願いの表れでしょうか。
 このあと、墨滅歌(すみけちうた)11首ごご紹介しますので、この一日一首の古今和歌集紹介はまだ少し続きますが、大きな区切りに到達しました。3年余り続けて来てここまで来たので感慨はもちろんありますが、それよりも終わってしまう寂しさの方が今は強いですね。

 本当の全巻読み切りまであと11日。最後までお付き合いいただければ嬉しく思います。

 


古今和歌集 1099

2022-11-02 04:48:25 | 古今和歌集

おふのうらに かたえさしおほひ なるなしの なりもならずも ねてかたらはむ

おふの浦に 片枝さしおほひ なる梨の なりもならずも 寝てかたらはむ

 

よみ人知らず

 

 「おふの浦」に片方の枝を覆うほどたくさん生っている梨は、「梨(なし)」なのに「なる」と言うけれど、私たちの恋が実るにしろ実らないにしろ、まずは共寝をして語り合おう。

 詞書に「伊勢歌」とありますので、「おふの浦」は伊勢の地名と思われますが詳細は不明です。梨は「なし」なのに実が「なる」、さてそれでは私たちの恋はどうでしょうねという歌ですね。

 


古今和歌集 1098

2022-11-01 05:51:07 | 古今和歌集

かひがねを ねこしやまこし ふくかぜを ひとにもがもや ことづてやらむ

甲斐が嶺を 嶺越し山越し 吹く風を 人にもがもや 言伝てやらむ

 

よみ人知らず

 

 甲斐の山を、嶺を越し山を越して吹いている風が人であれば良いのになあ。そうすれば便りを託して送ろうと思うのに。

 第四句の「もがも」は、願望を表す助詞「もがな」の古い形です。山を越えてくる風が人だったら手紙を託す、というのですから、便りしたい相手が山の向こうにいるということですね。


古今和歌集 1097

2022-10-31 06:27:27 | 古今和歌集

かひがねを さやにもみしか けけれなく よこほりふせる さやのなかやま

甲斐が嶺を さやにも見しか けけれなく よこほりふせる さやの中山

 

よみ人知らず

 

 甲斐の国の山々をはっきりと見てみたい。それなのに、心なく横たわって視線を遮っている小夜の中山よ。

 この歌と次の 1098 は「甲斐歌」。「甲斐が嶺」は、富士山、白根山など特定の山を指すとの説もあります。「けけれなく」は「こころなく」の東国なまりのようです。第五句の「さやの中山」は、0594 にも出てきた地名ですが、「さや」に見たいのに「さや」の中山が邪魔をしているという洒落(駄洒落?)ですね。

 

 さて、この連載も今日から4年目に突入。それと同時に巻第二十「大歌所御歌」も残り3首、「墨滅歌」まで含めた全巻読み切りまでもあと14首になりました。あと二週間で古今和歌集の日々紹介もおしまいかぁ。。。