そまひとは みやきひくらし あしひきの やまのやまびこ よびとよむなり
そま人は 宮木ひくらし あしひきの 山の山彦 よびとよむなり
紀貫之
樵(きこり)たちが宮殿を造るための木を伐り出しているらしい。山の山彦が大きな声で呼び交わし合っているのが聞こえる。
古今和歌集の「本文」と言うべき巻第二十までの歌のご紹介は昨日で終了。今日からは残り11首の「墨滅歌(すみけちうた)」をご紹介します。「墨滅歌」とは何か。冒頭には
家々称証本之本乍書入以墨滅歌 今別書之
と、なぜか漢文での説明が記されています。読み下すと「家々に証本と称する本に書き入れながら、墨を持って滅(け)ちたる歌 今別に之を書く」。家々で、正しいと称する本に書き入れてありながら、それを墨で消してある歌、それを今、他の歌と分けてここに書き記す、というわけです。
そこには、これらの歌が書かれていた場所も記されていて、ここから 1105 までの五首は「巻第十 物名歌」。そしてこの歌の詞書には「ひぐらし」、左注には「在郭公下 空蝉上」とあります。「ひぐらし」を詠み込んだ物名歌で、書かれていた場所は「郭公(0423)の次、空蝉(0424)の前」ということを表しています。なかなかきめ細かい記述ですね。元あった場所の前後の歌の再読と併せてご覧いただくのも一興でしょうか。