いまぞしる くるしきものと ひとまたむ さとをばかれず とふべかりけり
今ぞ知る 苦しきものと 人待たむ 里をば離れず とふべかりけり
在原業平
今になってようやくわかりました。人を待つのは苦しいことだと。自分を待っていてくれる女性の里に、途絶えることなく通うべきだったのですね。
詞書には「紀利貞が阿波介にまかりける時に、馬の餞せむとて、今日と言ひ送れる時に、ここかしこにまかりありきて、夜ふくるまで見えざりければ、つかはしける」とあります。「馬の餞」は送別の宴。そこに来るはずの紀利貞が夜更けになっても来ないので詠んで遣わした歌ということですが、やって来ない自分を待っている女性のつらい気持ちがようやくわかったと、自身の「反省」を詠んでいるところが面白いですね。伊勢物語では第48段収録です。